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2025/11/02
軍事強化の新たな「種」をまく新政権
高市首相とトランプ大統領による日米首脳会談を報じる各紙自民党と維新の会の「連携」で10月に発足した新政権は、早くも軍事強化の新たな「種」をまいている。高市早苗首相は、来日した米国のトランプ大統領との会談(28日)で、「防衛費のGDP2%引き上げ」を前倒しで行うと伝達した。
防衛費の倍増は、岸田内閣時代の2022年12月、「安保3文書」が閣議決定された際に「27年までに、防衛費をGDP2%に増額する」ことが表明された。高市首相はそれを25年度中に達成するというのだ。
首相といえども、国家予算である重要な問題を、国会に諮ることなく勝手に決める権限はない。「初の女性首相」ともてはやされ、就任早々、米原子力空母ジョージ・ワシントン艦内でトランプ大統領の横で拳を上げて満面の笑み。日本国憲法が掲げる「主権在民」の理念はふっとんでしまったかのようだ。
韓国・慶州であったアジア太平洋経済協力会議(APEC)。11月1日の最終日の会見で高市首相は、米中韓の首脳会談など一連の外交について、「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」を取り戻すために「着実なスタートを切った」と語った。
本当にそうなのか。当初、危ぶまれていた中国の習近平国家主席との会談は実現したものの、表面的な「関係の構築」にとどまり、日本産食品の輸入再開や拘束されている日本人の問題など山積する課題の解決策は道筋さえ示されなかった。高市首相の背後に見え隠れする「軍事化」を中国側はどうとらえているだろうか。
安倍晋三元首相が、集団的自衛権行使容認を閣議決定したのは14年7月。以後の自民党政権は、軍事国家への方向をひた走る。
そして、言論や報道の自由、市民生活を抑圧する可能性があるスパイ防止法の制定は、自民党だけではなく、維新や国民なども推進する方針だ。
戦後80年。新聞社や放送局など組織にいる記者たちもフリーのジャーナリストも、一人の市民。「平和は市民がつくる」ことは言うまでもない。
(M・M)
2025/08/26
戦後80年に思う
「シベリア・モンゴル抑留犠牲者追悼の集い」で献花をする西倉勝さん
=東京都千代田区で
今夏で戦後80年を迎えた。=東京都千代田区で
敗戦の日からこの10日間ほどは、重要な出来事が相次いだ。
まずは15日、石破首相は戦後80年にちなんだ「首相談話」の発表を見送った。
戦後50年(村山富市首相)、60年(小泉純一郎首相)、70年(安倍晋三首相)と続いてきたものが、途切れてしまった。1995年の村山富市首相談話は、過去の行為を「植民地支配と侵略」と明記してアジアの人々に対する反省とおわびの気持ちを表明し、日本の戦争責任を明確にした。20年後の安倍晋三首相談話は、日本の加害責任について具体的な言及はなく、「反省」の言葉は消えた。それでも、日本が「中国、東南アジア、太平洋の島々など」に「計り知れない損害と苦痛」を与えたことを、「侵略」や「植民地支配」に日本が関わったことを認めた。
それぞれの談話には、賛否両論がある。だが、首相談話は、国内外に対して日本が平和国家としてどうありたいのかを示す、象徴的なものだった。閣議決定がなされる首相談話がなかったことは「後退」とみていいのではないか。
次に横浜市で開催されたアフリカ開発会議(TICAD、20~22日)。米国はトランプ政権下、7月に対外援助事業を担った米国際開発局(USAID)を解体すると発表し、アフリカ各国や支援する国際機関、NGO(非政府組織)は衝撃を受けたまま、TICADに突入した。トランプ大統領が強調する「自国第一主義」の風潮が他国の人々に広がったらどうなるか。日本では「日本人ファースト」を唱える政党が7月の参院選で議席数を伸ばしたことを忘れてはならない。
そして、23日の日韓首脳会談。韓国の李在明(イ・ジェミン)大統領が就任後、初めて来日し、首相官邸で開かれた。「未来志向で行こう」と両国は合意したが、李大統領が歴史問題に触れなかったのは、後に控える訪米(24~26日)を念頭に、日本との関係を安定させようという狙いがあった、との見方がある。けれども、互いに過去の歴史に向き合わなければ、「日韓の溝」を埋めることはできない。とりわけ、加害側である日本は、このことを肝に銘じるべきだろう。
この間、戦争の犠牲者を追悼し、平和を誓う行事が各地で開かれた。毎年8月23日は、東京の千鳥ケ淵戦没者墓苑で「シベリア・モンゴル抑留犠牲者追悼の集い」が営まれるが、今夏は、抑留経験者や遺族、支援者ら約200人が参列した。
主催者代表であいさつした100歳の西倉勝さんは「6万人を超える犠牲者全体の追悼は、本来は国が主体となって行うべきだ」と訴えた。また、23~26日は、シベリア抑留犠牲者の約4万6300人分の名簿を、有志が追悼の意を込め、オンライン上で読み上げた。名簿は、抑留経験者だった村山常雄さん(26~2014年)が、96年から10年をかけて作成したものだ。厚生労働省が公表したカタカナ名の不完全な名簿が基で、遺族から集めた情報などを照合して氏名の漢字をできる限り割り出していった。
西倉さんはこの読み上げにも参加し、「80年前を思い出す。いまの若い世代に私たちの味わった経験をさせてはいけない。戦争は二度と起こしてはいけない」と言葉に力を込めた。
世界では、いまなお戦争が続いている。どうすれば「戦争のない世紀」が実現するのか。平和憲法を持つ日本の役割は何か。この国に住むひとりひとりができることは何かを考えたい。
(M・M)
2025/05/28
日本学術会議 特殊法人への移行
歴代会長が反対の声明を発表
「日本学術会議」を、国の特別機関から特殊法人に移行させる法案が国会で審議されている。2020年10月、菅義偉首相(当時)が、学術会議側から推薦された会員候補のうち6人を任命拒否したことに端を発して見直しの議論が始まった。法案には首相が学術会議の活動を監督する仕組みが盛り込まれ、「独立性が損なわれる」などと懸念する声が上がっている。日本学術会議の歴代会長が5月20日、同法案の廃案を求める声明を発表した。吉川弘之(東京大名誉教授)▽黒川清(政策研究大学院大学名誉教授)▽広渡清吾(東京大名誉教授)▽大西隆(同)▽山極寿一(総合地球環境学研究所長)▽梶田隆章(ノーベル物理学賞受賞者、東京大卓越教授)――の6氏の連名だ。現行法では経費の国庫負担や独立性が保障されている。特殊法人への切り替えは「政府による科学の独立性の軽視と科学の手段化」になると指摘している。
同日、参院議員会館であった緊急院内集会には、梶田氏、広渡氏、田中優子・法政大前総長らが参加し、任命拒否となった当事者の一人で歴史学者の加藤陽子・東京大教授は民主主義の観点から懸念を表明した。憲法学者の長谷部恭男・早稲田大教授は、「内閣総理大臣が監督権者になることは、『日本学術会議管理法』をつくりだすものにほかならない」などと述べた。
推薦候補者の任命拒否に関しては、立憲民主党の小西洋之・参院議員が国を相手取り、首相が任命拒否できるという法解釈の整理に至った行政文書の開示を求めて東京地裁に提訴。東京地裁は5月16日、文書の一部を黒塗り(不開示)とした国の対応を違法として取り消し、全面開示するよう命じた。
学術会議は210人の会員で構成され、任期は6年。3年ごとに半数が任命される。任命は首相が行うが、1983年、当時の中曽根康弘首相は「形式的任命にすぎない」と国会で答弁し、歴代首相は学術会議が推薦した候補者をそのまま任命する運用を続けてきた。ところが、菅氏は20年、推薦候補者105人のうち6人を拒否した。その後、内閣府にある学術会議の事務局がその2年前の18年、内閣法制局に相談して「首相が推薦通りに任命する義務があるとは言えない」と法解釈を整理する文書を作成していたことが判明。小西議員はこの結論に至るまでの内閣府と内閣法制局のやり取りが分かる文書の開示を求めたのに対し、国は21年、一部を黒塗りにした文書を開示したため、提訴していた。
判決では、推薦された候補者を歴代首相がそのまま任命する運用が18年の法解釈整理によって「大きく変えられたと国民一般に受け取られ得る」と指摘した。菅氏が任命拒否をした理由が、黒塗りの部分に隠されているといえる。
院内集会では、小西議員が、肝心な部分が黒塗りとなった行政文書に関する資料を示し、「黒塗りの部分の開示がない限り、国会でこの法案に関する審議をすることは許されない」と強調した。
法案を巡っては、自民党による学術会議のあり方を検討する作業チームが、「政治的中立性を担保するためにも、独立した新たな組織として再出発すべきだ」といった提言をまとめ、政府は会員選考に第三者機関が参画する仕組みを導入した日本学術会議法の改正案を仕上げた。これに対して学術会議側から反対意見が相次ぎ、政府が設置した有識者懇談会で再検討。その報告を受け、政府は新たな法案を今国会に提出し、自民・公明の両党と維新の会などの賛成多数で5月13日に衆院を通過し、参院に送られた。
日本学術会議の役割は、科学者の知見や真理の探究によって社会に貢献することだ。政治、権力の介入があってはならない。
(M・M)


