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2023/07/25
改憲攻防は続いている
 改憲攻防は「24年9月はどうあれ続く」

★ 「24年9月までの総裁任期中に改憲という思いはいささかも変わっていない」。これが岸田首相の定番せりふだった。ただそのためには首相はいくつかの数式を解かねばならないということは前稿でもふれた。ところが 6月15日の衆院憲法審査会で、自民議員は「『任期 とは来年の9月を想定したものではない』と発言した」(上川陽子議員、新藤義孝議員)。報じたのは2紙だったと思う。

★ 首相とその周辺にとっては「24年9月の自民総裁選で再選」が絶対命題だ。岸田応援団としては「総裁選/解散/改憲」の3元連立方程式のうち「改憲」の荷を軽くしてやろうという深謀遠慮だったのか。上記の自民発言から6日後の21日、首相は会期末の記者会見で「目の前の(総裁)任期中の改憲の努力」という言い方をした。やはり改憲勢力からの押し戻しがあったのだろうか。ただ「改憲までの具体的スケジュールは言わない」路線だ。

★ 7月6日、首相はまた産経のインタビューに応じた。安部死亡1年を受けたものだが、産経の改憲質問に、「任期中に改憲に努力という気持ちは変わりない」と6月答弁を繰り返した。いらだったのだろう、産経は岸田の「任期」ということばに、(来年9月までの)という形容をカッコつきで載せた。
 
★ 改憲派は「今年秋の国会で改憲案をまとめる」「来年に国民投票」と息巻く。憲法を守るという人の中でも「来年秋までに改憲、怖い、あせる」と口にする人はいる。改憲派の執念は軽視しないが、あと1年2カ月で国民投票を終えられるか。その間、岸田政権が力を維持できるのか。7月25日2紙が世論調査を発表した。毎日=岸田内閣支持28%/不支持65%(ダブルスコアだ)、読売=支持35%/不支持52%。もとより改憲反対の国民世論はやはり根強い(今年5月の共同通信世論調査=いま改憲の機運はない70%)。改憲各党の案はまとまるのか。

★ 改憲をめぐる攻防で、われわれは押し負けて負けてはいないと思う。少なくとも「24年9月までの改憲」を打ち破る下地はある。

 ただし2点。
 ⓵改憲派の執念をいささかも軽く見てはならない。
 ②そのあとも改憲とのたたかいは終わりはない。
(寺)
2023/07/14
これでいいのか―問われる法曹界
 あまり報道されていないが、法曹界が揺れている。雑誌「経済」5月号掲載された、フリー・ジャーナリスト後藤英則氏の論文が、波紋を呼んでいるためだ。

「最高裁の政治性」についての議論は今に始まったことではない。しかし、その人事と国の責任を問う裁判が、こんなにはっきりと見える形で明らかにされると、これはもう一種の「スキャンダル」。最高裁と大手事務所は、これでいいのか?
 もはや「裁判官は弁明せず」などといっている段階ではない。最高裁は事実を調査し、きちんと釈明し、問題がある裁判のやり直しを命じなければいけないのではないだろうか。

▼原発事故に国の責任はないのか?

 後藤氏の論文は、「『国に責任はない』原発国賠訴訟・最高裁判決は誰がつくったか 裁判所、国、東京電力、巨大法律事務所の系譜」というもので、昨年6月、最高裁が原発の被害を訴えた「福島生業」「群馬」「千葉」「愛媛」の訴訟の上告審で「想定を超える津波が来たので、たとえ事故前の予測に基づき防潮堤を作るなど対策を取っていても、事故の発生は防げなかった。だから国に責任はない」という判決について批判したものだ。

 国がするいろいろな事業には、「危険」が伴う場合がある。原発はその最たるものだが、そんなとき、その事業を進めるには、当然「対策」が求められている。原発への津波到来は、予測されていたが、今回の判決では、高裁で認定した「水密化」による事故防止対策は無視し、防潮堤だけに触れて、津波が予測より高かったので「想定外だった」から仕方がなかった、として責任を否定した。この言い分が通るなら、全国さまざまな公共事業の事故について、「想定外」が繰り返され、国は責任回避を広げかねない。

 「経済」では11ページにわたって、この判決を批判した。
 そこでは、法律審であるはずの最高裁が、高裁での事実認定を無視して独自に事実認定し、事実に基づかないまま判断するという間違いを犯していることや、多数意見より反対意見が量も内容も充実しており、多数意見が極めて杜撰なもであることを明らかにした。

 そしてさらに、判決を出した第2小法廷の4人の裁判官のうち、多数意見の3人が、みんな、企業法務などを国際的にも展開しているいわゆる大手法律事務所と関わっている事実を論証、実際に裁判に絡んでいることを明らかにした。

▼出たり入ったり面倒見たり…最高裁と大手事務所「回転ドア」

 具体的には、次のような事実だ。
  1. 裁判長の菅野博之判事は、この判決の翌月退官して、5大法律事務所の一つで、株主代表訴訟で東京電力の代理人の弁護士が所属する「長島・大野・常松法津事務所」の顧問に就任した。

  2. 多数意見を支持した草野晃一判事は、最高裁判事になる前、やはり大手の「西村・ときわ法律事務所」(現西村・あさひ法律事務所)の代表経営者だった。

  3. 生業訴訟などでは、元最高裁判事の千葉勝美弁護士の意見書が出されているが、この人は、最高裁事務総局当時、菅野裁判長の上司だった。千葉弁護士は、最高裁を退官したあと、草野氏がいた、この「西村・あさひ法律事務所」の「顧問」となっている。

  4. 多数意見に同調した岡村和美弁護士は、とされているが、弁護士登録した最初に所属した事務所が、この「長島・大野・常松」の前身、「長島・大野法律事務所」だった。
▼法律問題は関係がない…でいいのか

 後藤氏はこれらについて、最高裁や大手事務所に質問したが、いずれも「個別の事件については答えられない」「全て法律論」などと回答は得られなかったという。

 問題になっている5大法律事務所とは、「西村・あさひ」「長島・大野・常松」「アンダーソン・毛利・松本」「森・浜田松本」「TMI」の各法律事務所。いずれも500人から700人の弁護士を抱え、国内や海外にも拠点を持つ。

 原発事故では、「政界・財界・官界」に加えて「学界・報道界」を入れて「原発利益共同体」「原発ペンタゴン」などと言われているが、「最高裁と大手弁護士事務所」の癒着は、「法曹界」も「原子力村」の利益共同体の一角を占めていることを示している。

 「司法」だけは何とかまともでいてほしい、「最高裁」だけは何とかまとめでいてほしい、と「憲法の番人」を期待する国民の声に、法律家はどう考えるのだろうか?
(S.M.)
2023/06/28
政治の「劣化」を食い止めよう
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 旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と自民党との癒着、マイナンバーカード普及のための健康保険証の廃止、入管法の「改悪」や「LGBT理解増進法」の強行可決――。民意とかけ離れたことを次々と押し進める現政権。一体、どこを向いて政治をつかさどっているのか。
 当事者らがいち早く反対の声を上げたLGBT理解増進法(6月16日成立)は、性的少数者に対する理解を広げることが目的なのに、法案の度重なる修正で「差別を助長しかねない」と懸念が残る内容になった。
 理由の一つは、「全ての国民が安心して生活できるよう留意する。政府はその運用に必要な指針を策定する」と定めた12条だ。日本維新の会、国民民主党の賛同を得ようとして自民党が両党案を受け入れて新設された。法律が施行されれば、「男性の体を持って生まれたが心は女性」という人も「女湯に入れるようになる」など、誤った言説が流布されたことが背景にある。この条文は、使い方によっては多数派に配慮する規定として機能し、「自治体や教育現場での先進的な取り組みが規制されてしまう」とのおそれがある。同法の成立後、LGBT法連合会のメンバーや弁護士、支援者らが東京・霞ケ関の厚生労働省で記者会見し、「求めてきた法案とは逆の内容。さらなる生きづらさを強いられる」などと訴えた=写真。
 首相自身、息子が外遊の際に公用車で観光した疑惑の渦中にあり、さらに新型コロナウイルス禍の下、家族や親族らを集めて首相公邸でパーティーを行うなど「ありえない」ことを次々とやってのけている。
 日本の市民社会の成熟度が問われて久しい。だが、政治の「劣化」があまりにも激しい。スマートフォンではなく現実を見よう。そして声を上げて行動しよう。「まずは自分から」と気を引き締めている。
(M)
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