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2023/01/02
 
 政府は2022年12月16日、「敵基地攻撃能力の保有」などを新方針とする「国家安全保障戦略」「防衛計画 の大綱」「中期防衛力整備計画」のいわゆる「安保関連三文書」を改定、閣議決定した。これについて、多くに団体が抗議声明
明を発表している。
 順次、紹介しよう。

敵基地攻撃能力の保有などを新方針とする安保関連三文書改定の閣議決定に抗議する
法律家6団体の声明

2022年12月27日

改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター       共同代表理事 海渡 雄一
自由法曹団            団長     岩田 研二郎
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長     笹山 尚人
日本国際法律家協会        会長     大熊 政一
日本反核法律家協会        会長     大久保 賢一
日本民主法律家協会        理事長    新倉 修

1 日本の安全保障政策を大きく転換させる安保関連三文書改定

 本年12月16日夕刻、政府は、安保関連三文書(国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画)を改定することを閣議決定した。改定は、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を容認し、軍事費が5年間で計43兆円の大幅増が明示されるなど、憲法9条に基づく専守防衛を改め日本の安全保障政策を大きく転換するものである。
 改憲問題対策法律家6団体連絡会は、今回の閣議決定に対し強く反対し抗議する。

2 敵機地攻撃能力の保有は憲法9条に違反し、戦争への危険を高める

(1) 敵基地攻撃能力の保有は憲法9条に違反する
 日本は先の大戦において、中国などを侵略し、真珠湾への奇襲攻撃により泥沼のアジア太平洋戦争に突入し、自国及び他国に対し多くの惨禍をもたらした反省から、2度と政府の行為によって戦争の惨禍を繰り返さないと決意して(憲法前文1項前段)、憲法9条が、戦争放棄(1項)、戦力不保持(2項前段)、交戦権の否認(2項後段)を定めた。
 敵基地攻撃は、相手国の武力行使の着手の認定が困難で、国際法上違反とされる「先制攻撃」に繋がる現実的危険性が十分にあり、「自衛のための必要最小限度」を超えた武力行使を認めるものであり、憲法9条1項に反する。加えて、仮に日本が敵基地をミサイルで攻撃すれば、敵国もミサイルで日本を反撃することになり、全面戦争に発展する蓋然性が高い。このような事態を招来する敵基地攻撃能力は、「自衛のための必要最小限度」を超えた武力行使を認めるものであり、「国際紛争を解決する手段」として戦争を放棄した憲法9条1項、「国の交戦権は、これを認めない。」とした憲法9条2項後段に違反する。
 さらに、戦力不保持に関して、政府は、「他国に侵略的攻撃的脅威を与えるような装備」については憲法上保持できないと説明してきた(1988年4月6日参議院予算委員会、瓦力防衛庁長官)。今回の閣議決定は、まさに「他国に侵略的攻撃的脅威を与える」装備の導入を認めるものであり、憲法9条2項前段の戦力不保持に反する。

(2) 「抑止の虚妄」 敵基地攻撃能力の保有は、東アジアの緊張関係を強めるだけ
 敵基地攻撃能力の保有によって、スタンド・オフミサイルなどの長距離攻撃 が可能な兵器を保有し、東アジアを攻撃の射程内に入れることになる。中国、朝鮮をはじめとする東アジア諸国は、日本を警戒し、東アジアにおける緊張関係はさらに高まる。
 安保関連三文書改定を受けて、中国外務省の報道官は、「中日両国関係で日本が約束したことや合意を無視して中国を中傷し続けている。断固として反対する」と述べ、外交ルートを通じて日本側に抗議をした。韓国メディアは、日本のことを「事実上戦争が可能な国家に変貌した。東アジアの軍備競争をさらに激化させ、緊張を高める」、「憲法9条を完全に無力化する内容」と警戒し、韓国も自らを強くする努力が必要だと主張する。
 日本が、東アジア諸国に対して軍事的圧力を高めていくことは、決して戦争の抑止にはならず、むしろ果てしない軍拡競争を招くなど、軍事的衝突の危険を高めるものであり、安全保障上も失策であると言わざるを得ない。

(3) 安保関連三文書改定は、日本が戦争する危険を飛躍的に高める
 日米同盟における米国と日本との関係は、これまで「矛と盾」との関係と説明されていた。しかし、近年米国が、自国の負担を減らし日本のさらなるコミットメント(矛の役割)を求めていることは周知の事実である。バイデン政権は、本年10月に公表した「国家安全保障戦略」の中で、「唯一の競争相手」と位置づける中国への対抗措置を最優先課題に掲げており、日本の安保関連三文書改定も、アメリカの対中戦略に基づいて改定されたことは明らかである。改定された三文書は、中国を「深刻な懸念」「強い懸念」と位置づけ、日本が矛の役割を積極的に担い、攻撃兵器の保有・配備により中国を抑止し、抑止が破れた場合には、日米共同軍事計画に基づき、南西諸島や九州地方をはじめとする我が国の本土を軍事拠点とし、自衛隊が米軍の指揮のもとに米軍と一体となって中国と戦争をすることを想定している。また、核を含むあらゆる能力によって裏打ちされた米国による拡大抑止の提供を含む日米同盟の抑止力と対処力を一層強化するとして、平時から日米同盟調整メカニズムを「発展」させ、日米のより高度かつ実践的な共同軍事訓練や日米の基地の共同使用の増加に努めるほか、空港、港湾等の公共インフラの軍事利用体制整備、産学連携の軍事研究開発に取り組むとしている。
 2015年9月19日、国民の反対の中で成立した安保法制の下では、台湾有事をめぐり米中に武力紛争が起きれば、政府は「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した」として存立危機事態を認定し、自衛隊が集団的自衛権に基づき米中の戦争に参戦することとなる。そうなれば、真っ先に南西諸島や九州のみならず日本本土が中国の反撃を受けて取返しのつかない甚大な被害を被ることとなる。安保法制に加えて、敵基地攻撃能力保有の政策の大転換は、日本が米中戦争の当事国となる危険を飛躍的に高めることとなる。

3 軍事費の大幅増額は許されない

(1) 軍事費を2倍にしても安全にはならない
 安保関連三文書改定によって、軍事費が5年間で計43兆円の大幅増が明示された。この大幅増が実現すれば、軍事費はGDP比2%の水準となり、日本の軍事費は米国、中国に次ぐ第3位の規模となる。
 かつて日本は、平和主義憲法に基づき、軍事大国とはならないことを示すために軍事費をGDPの1%内としてきたが、それが近隣諸国に安心を与え平和の構築に寄与してきた。この制約を根本的に取り払いGDP比2%の軍事費を捻出したとしても、中国の現状の軍事費とはまだ3倍近い差がある。他方、中国は日本の5倍程度のGDPを有しているため、日本が軍事費を増額するならそれに対抗して、容易に自国の軍事費を増やすことができる。
 軍拡は、相手国のさらなる軍事の拡大を招くだけであって、軍拡によっては永遠に安全を得られない。

(2) 軍事国家化は、福祉国家と基本的人権の尊重の原則にも影響を与える
 安保関連三文書改定によって、今後5年間の軍事費の総額がこれまでの1.6倍にあたる43兆円程度とされた。この莫大な軍事費は、経済成長が大きく見込まれない日本においては、増税、国債、文教・福祉予算等の歳出削減によって賄う以外に方法はない。
 前代未聞の軍事費拡大は、福祉国家を崩し、国民に貧困と苦難を強いる。まさに「軍栄えて民滅ぶ」という事態を招きかねないものである。

4 実質改憲を閣議決定で行うような国は立憲民主主義国家とはいえない

 今回の安保関連三文書改定は、「専守防衛」を名実ともに完全に破棄する安全保障政策を大転換するものであり、前記のとおり敵基地攻撃能力の保有は、憲法9条に違反する。本来ならば、憲法改正手続きに拠らなければ変えられないことであり、今回の閣議決定は、実質的改憲にほかならず、立憲民主主義の基本に反する暴挙である。
 また、軍事費の大幅増額によって国の財政の在り方も大きく変更し、国民生活に現実的かつ大きな影響を与えるものである。そうであるならば、国民生活の実態を踏まえた上で、少なくとも国会での十分な審議が必要であることは明らかである。

5 まとめ

 憲法の平和主義、憲法9条に反し、近隣諸国との緊張を高め、戦争のリスクを増大させる今回の安保関連三文書改定閣議決定は、撤回されるべきである。
 平和主義憲法に基づく独自の安全保障政策を展開し、東アジアの平和構築に積極的に貢献するとともに、社会保障費、教育予算、物価対策、子育て関連費用等を充実させて、国民(市民)の命と生活を守ることこそが、政府の使命である。
以上
2022/09/14
安倍元首相の「国葬」に反対する ――世界の人たちに向けてJCJアピール
 日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、12日、安倍元首相の「国葬」について反対し、国葬が法的な根拠がなく、市民に弔意を強制する行事であり、思想信条の自由など民主主義のルールに反する」だけでなく、「平和路線を捨てて、憲法条文の勝手な解釈によって集団的自衛権の行使を法制化し、アジアや中東で米国と一緒に『戦争ができる国』へと変容させ」、「米国との『核共有』にも言及するような、危険な道を開いた政治家の遺志」を持ち上げ、継承しようとする」ものだとして、国葬反対を「世界の人々に知ってほしい」と訴えるアピールを発表しました。
 各国政府には、「民主主義のルールに反した『国葬』の実情を確認し、賢明な判断を」と呼びかけています。

安倍元首相の「国葬」に反対する
――世界の人たちに向けてJCJアピール

 私たち、日本ジャーナリスト会議(略称JCJ)は第2次世界大戦後、「再び戦争のためにメディアは協力してはならない」と決意して生まれた、ジャーナリストとそれを支持する市民の組織です。
私たちはいま、安倍晋三元首相の「国葬」を日本政府が実施することに反対しています。「国葬」に法的な根拠がなく、市民に弔意を強制する行事であり、思想信条の自由など民主主義のルールに反するからです。
 しかも安倍晋三元首相は、極右の反社会的団体である旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と濃密な関係にある人物でした。霊感商法などで人々を苦しめた旧統一教会。それに関係した政治家を国が多額の公費で顕彰することに、違和感を抱く人たちは数多くいます。
 私たちは以下の4点を世界の人たち、ならびに世界のジャーナリストに知っていただきたく、声明をまとめました。この声明は日本外国特派員協会、国境なき記者団ならびに関係する各国在日大使館あてに送るほか、在京の日本メディアにも送付します。
  1. 「国葬」は、明治憲法下において天皇の勅令「国葬令」に基づき実施されてきました。敗戦後、日本国憲法成立に伴い、「国葬令」は1947年に失効しました。現在、国葬を実施することにも、その経費を全額国費から支出することにも法的な根拠はありません。「国葬」は立憲主義に反します。

  2. 「国葬」の最大の問題は、国民に対して特定の個人に対する弔意を事実上強制することにあります。国費でまかなうため、国民は税負担も強制されます。法的根拠があいまいなまま行われた吉田茂元首相の国葬(1967年)では、全国でサイレンが鳴らされ、娯楽番組の放送が中止されました。悪しき前例があります。

  3. 安倍元首相の政治は、日本国憲法を壊すことに力を注いだ約9年間でした。私たちの日本国憲法は、アジア太平洋地域で2000万人とも推計される犠牲者を出した日本の侵略戦争の反省から生まれました。同第9条は、国際紛争解決のための「戦争を放棄」し、「陸海空軍その他の戦力」の不保持と、「交戦権」の否定を定めています。この平和路線を捨てて、憲法条文の勝手な解釈によって集団的自衛権の行使を法制化し、アジアや中東で米国と一緒に「戦争ができる国」へと変容させたのが安倍元首相です。米国との「核共有」にも言及するような、危険な道を開いた政治家の遺志を「国葬」を通じて持ち上げ、継承しようとする岸田政権に反対します。

  4. 安倍元首相の「国葬」については、日本国民の世論も否定的です。共同通信の調査では、国葬に賛成45.1%に対し、反対は53.3%、毎日新聞調査でも賛成30%に対し反対53%。読売新聞調査では国葬実施を「評価しない」が56%を占め、「評価する」38%を上回り、NHK調査も「評価しない」が50%で、「評価する」が36%です。世論は国葬実施を支持していません。

 日本ジャーナリスト会議は、「国葬」が上記のような問題をはらんでいることを世界の人々に知ってほしいと願っています。各国政府には、民主主義のルールに反した「国葬」の実情を確認し、賢明な判断をされることを訴えます。

             2022年9月12日
               日本ジャーナリスト会議(JCJ)

We Oppose the State Funeral for Former Prime Minister
An Appeal by the JCJ to the World

The Japan Congress of Journalists (JCJ) opposes the Japanese government’s decision to hold a state funeral for former Prime Minister Shinzo Abe. The JCJ was established in 1955 as an organization of journalists and citizens determined that media must never cooperate with any war effort.

The former prime minister had strong ties with the Unification Church, one of the antisocial organizations, presently known as the Family Federation for World Peace and Unification. Many citizens in Japan are strongly opposed to the idea of honoring him through the use of public money.

Listed below are four points we would like to convey to the world.
  1. In Japan of the past a State Funeral had been held based on “the state funeral decree” issued by the emperor. In 1947, after the defeat in World War II the “state funeral decree” was declared null and void. Today no legal basis to conduct a state funeral exists.

  2. The biggest problem of a state funeral is to oblige people to hold a sense of mourning for a specific individual. The people are to be forced to shoulder the tax burden as well.

  3. The politics by former Prime Minister Abe for nine years had been to destroy the Japanese Constitution. He abandoned the road of peace diplomacy, legalized the right of collective self-defense through arbitrary legal interpretations, and altered Japan into “a nation which can fight a war” with America in Asia and the Middle East. We oppose the Kishida administration that praises and carries on such a dangerous desire through the holding of a state funeral.

  4. Public opinion in Japan has been negative about a state funeral for Mr. Abe. According to the survey by Kyodo News Service, while 45.1% supported a state funeral, 53.3% were against it. The survey by The Mainichi Shimbun showed that 30% favored the state funeral while 53% said they were against it. The survey by The Yomiuri Shimbun found 56% of the respondents said it is not appropriate, exceeding the 38% who said it is appropriate. According to the NHK survey, 50% of respondents said they "do not appreciate" and 36% said they "appreciate." Public opinion does not support the implementation of a state funeral.


We sincerely hope people of the world will understand that the planned state funeral for Abe has such problems. We call on the governments of other nations to understand that the funeral violates the rules of democracy and ask them to make a wise judgement.

Sept. 12, 2022
Japan Congress of Journalists (JCJ)

2022/08/22
安倍元首相の国葬問題訴訟・住民監査請求
 安倍元首相の国葬問題について、国に中止を求める訴訟と、その国葬に関して自治体の首長らが出席しないことを求める住民監査請求が始まっている。
 代表的な訴訟の訴状と、監査請求の請求書を掲載する。いずれも、日本国憲法下で「安倍国葬」がいかに問題なのか、が整理されてわかりやすく書かれており、問題を考える上で有益だ。原告や請求人らは、こうした声を全国に広げたいと訴えている。

 国葬問題では、9日、ジャーナリストや大学教授ら231人による「岸田政権による安倍元首相の国葬強行を許さない実行委員会」が東京地裁に訴えたほか、12日にも市民による「安倍『国葬』やめろ実行委員会」が、国葬実施の閣議決定取り消しと、予算執行の差し止めを求める訴訟を横浜、さいたま両地裁に起こした。東京地裁には7月21日にも、国葬差し止め仮処分請求が出され、却下されている。

 もう一方で始まったのは、首長が国葬に出席するなど、公費の支出をやめさせようとい
うもので、北海道、大阪、兵庫、京都で、安倍国葬差止の住民監査請求が行なわれた。いずれも、国葬は公権力が閣議決定だけで一方的に実施するのは、思想・良心の自由を保障する憲法19条に反しているなどと主張している。
 住民監査請求は、自治体の財務会計行為について、具体的な処分行為がなくとも、相当の確実さをもって予測される場合には、請求ができるため、2020年11月8日に行なわれた国事行為「立皇嗣の礼」などに準じて知事や議会議長に案内が来て出席する蓋然性が高いことから、請求が行われた。今回は、葬儀まで日数がなく、執行されてしまうと被害回復が困難なので、勧告手続が終わるまでの間、同法242条第3項に基づく暫定的停止を求めた。監査結果が出る前に、国葬出席が行なわれると、「差止」から「支出費用の返還に変更することになっている。特に、この請求の場合、請求書に、住民が自分の住所と名前を自署して提出すれば足り、住民票などの添付書類も不要で、負担なく取り組めるとして、「請求書汎用版」を作成した。

 訴状は、前田朗・東京造形大名誉教授のブログから、また住民監査請求は、佐藤博文弁護士の提供によるものです。
 訴状: 安倍晋三元首相国葬差止等請求事件訴状

2022.8.19 国葬 措置請求書(別紙代理人、請求人目録なし)【公表用】.pdf (664KB)

2022.8.19【提出版】国葬 暫定的な停止勧告の申立て【請求者代表者名 略】.pdf (81KB)

2022/08/08
メディアは明確に反対を 安倍国葬Ⅲ
 国葬問題について、新聞各社は、国葬が法的に根拠を持たないものであること、その決定の仕方が非民主的だったこと、安倍元首相が国葬にふさわしいのか、といった議論をしている。しかし、国葬に『反対』と明確に打ち出したのは、琉球新報だけではなかったかと思われる。JCJは、こうした問題を議論して、声明を発表した。


 ▼戦前の遺物「国葬」にメディアは明確に反対を

 安倍晋三元首相が銃撃を受け死去した。これに対し岸田文雄首相が「国葬」を実施すると閣議決定したことに、批判が強まっている。だが主要メディアの「国葬」に対する姿勢はあいまいだ。「国葬」は天皇主権の明治憲法体制の遺物であり、国民主権・民主主義とは相いれないという立場を、報道機関は明確にし、人々に伝えるべきではないか。「国葬」とは何か歴史を踏まえて検証し、国民の「知る権利」に応え、「国葬」を実施するなと主張することを強く望みたい。

 「国葬」は、明治憲法下において天皇の勅令「国葬令」に基づき実施されてきた。敗戦後、日本国憲法成立に伴い、「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」第1条により1947年に失効した。日本国憲法の思想信条の自由、内心の自由、政教分離の原則と相いれないからだ。
現在、国葬を行うことにも、その経費を全額国費から支出することにも法的根拠はない。政府は内閣府設置法で内閣府の所掌事務とされている「国の儀式」として閣議決定すれば可能とするが、「国の儀式」に「国葬」が含まれるという法的根拠はない。

 1967年10月に吉田茂元首相の国葬が行われた。この時も当時の佐藤栄作首相が閣議決定だけで実施した。翌年の衆議院決算委員会で根拠法がないことについて質疑があった。その後議論が深まることはなく、「国葬」ではない合同葬や「国民葬」が行われてきた。それが今なぜ唐突に「国葬」なのか。

 今回の「国葬」に対する主要メディアの批判は、国会で説明していないこと、故人の業績への評価が分かれていることなどに重点を置いている。安倍元首相と旧統一協会との深いつながりが明らかにされてきた今、それらも重要な問題として追及しなければならないのは当然である。

 しかし何よりも、「国葬」の最大の問題は、国民に対して特定の個人に対する弔意を事実上強制することにある。国費で行うため、国民は税負担も強制されることになる。「弔意を強制することはない」と政府は言う。しかし、吉田元首相の国葬では、全国でサイレンが鳴らされ、娯楽番組の放送が中止された。
 近年でも「日の丸・君が代」を法制化した際、国民には強制しないと政府が説明したにもかかわらず、学校現場などで強制された例は数多い。教員らの処分が横行した。それと同様に、「国葬」への抗議行動が監視や取り締まりの対象になる恐れがないと言えるだろうか。また今後、「国葬」に類する政治的行事が乱発される危険はないだろうか。

 「国葬」強行は、戦前回帰、異論封殺、国民総動員につながりかねないという危機感を持って、報道機関は取材に当たってほしい。戦後ジャーナリズムの原点に立ち返って「国葬」にきっぱり反対の論陣を張ることを呼びかける。

                                               以上

       2022年8月8日
                                  日本ジャーナリスト会議(JCJ)

2022/08/04
安倍国葬に反対 Ⅱ
                                   WP7 No.154J  2022 年 8月3日

▼搾取・収奪常習を問われる集団に寄生する政治家の即退場を求める

世界平和アピール七人委員会
大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進

 去る7月8日、奈良市内で参院選の応援演説中だった安倍晋三元首相が旧統一教会に恨みをもつ暴漢に銃撃されて死亡した事件は、治安の良さを内外に誇ってきた日本国民に大きな衝撃を与えた。
しかしながら凶行以上に国民を困惑させたのは、80年代、90年代に悪名高い霊感商法で社会問題化した搾取・収奪常習の宗教集団、統一教会が、名称を変えて21世紀の日本で営々と生き延びていたこと、そして親の入信で苦難の人生を強いられた子どもたちの実態が事件によって浮かび上がったことである。

 逮捕された容疑者は子ども時代に母親の入信で実家が破産して以降、社会の底辺で逼塞しながら旧統一教会への恨みを募らせ続けたとされている。搾取・収奪常習の教団の信者とその家族は、その特異な価値観のせいで一般社会に受け入れられることはない。そのため二世・三世は精神的・経済的に追い詰められていることが多い。

 私たち世界平和アピール七人委員会はまず、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)による欺瞞的な勧誘や高額の献金がかくも深刻な社会問題であったにもかかわらず、今日まで等閑にしてきたことに、日本国民として深く恥じ入る。そしてさらに、安倍元首相の祖父である岸信介元首相にまで遡る政治家と旧統一教会の深すぎる関係にあらためて思いをはせ、安倍元首相の国葬を含めて強烈な違和感を新たにするものである。

 少なからぬ国民を脅し、騙し、強制し、多額の財産を奪い、家族を崩壊させてきた宗教団体の存在は間違いなく社会の治安をゆるがす問題であり、これを信教の自由で語ることはできない。そのような宗教団体である旧統一教会に、いま現在、元首相や現職閣僚を含む約100人超の政治家が関わりをもち、選挙で多大な便宜を図ってもらっており、何が問題だと居直る者もいる。批判の的になっていた「統一協会」名を隠すことになった名称変更が長年認められなかったのに、文化庁によって認められた2015年当時の文部科学大臣は、深い関係がこのたび明らかになった一人だった。選挙で勝つためには国民の苦難を顧みない政治、国民への加害をいとわぬ宗教団体に寄生する政治と言っても過言ではない。

当然ながら、弱い立場に追い込まれる国民の幸せも、公共的な意思決定を目指す民主主義も彼らの目には入っていない。安倍元首相が晩節を汚した森友問題や桜を見る会の公私混同も、またあるいは困窮者の再起を阻む日本社会の冷たさも、公共の正義を等閑視する政治がもたらした帰結である。

 人間のあるべき道義として、旧統一教会に寄生する政治家の即退場を求める。

連絡先:http://worldpeace7.jp


 ▼政府による安倍元首相の国葬の決定は、日本国憲法 に反する ―憲法研究者による声明―

 2022年7月22日、政府は閣議決定をもって、9月27日(火)に東京都千代田区の日本武道館において、安倍元総理大臣の葬儀を国葬という形式で執り行うと発表し、遺族もそれを承諾した。岸田首相が葬儀委員⻑を務め、これに掛かる経費は全て本年度の予備費から支出するとしている。われわれは憲法学を専攻し研究する者として、この国葬が行われた場合には、それが単に法的根拠を持たないだけでなく、日本国憲法に手続的にも実体的にも違反することになると危惧し、この国葬の実行に反対する。

 1  明治憲法下では、「国葬令」(1926年公布)が存在し、皇族と「国家に偉功ある者」に対して国葬が行われてきた。国葬令の適用は、大正天皇の国葬に合わせることになった。天皇の思し召しによって、国葬が実施され、国⺠は喪に服することを義務付けられた。国葬という形式は、山本五十六の時のように、何よりも明治憲法の軍国化を促す効用をもたらしてきたが、この「国葬令」は戦後の日本国憲法の施行と同時に1947年に失効している。
 国葬令は、なによりも憲法14条の平等主義に反するものであり、憲法に規定された基本的人権の保障に反するからである。戦後は吉田茂元首相の国葬があったが、これは「戦後復興に尽くした」との理由による例外的なものであった。佐藤栄作元首相の時も、国葬が提案されたが、憲法の番人である内閣法制局が認めなかったことにより、国葬案は実施されなかった。大平正芳元首相の時より、政府と自⺠党による合同葬の形式が慣行的に続いてきた。

 2  ⻑い間封印されてきた国葬が、岸田内閣によって以下の理由をもって実行されようとしている。
 それは「一 憲政史上最⻑になる8年8か月にわたり、内閣総理大臣の重責を担った  二 東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開等の大きな実績を残した  三 外国首脳を含む関係社会からの高い評価 四 選挙中の蛮行による急逝」と説明されている。
 しかし、この一〜三に評されるように、安倍内閣はそれほどに評価すべきことを行ってきたのであろうか。1回目の任期(第90代内閣総理大臣)の時は、教育基本法の改悪と防衛庁の省への昇格を実行したが、内閣スキャンダルと自身の病気を理由にして退いた。さらに、⻑期に及ぶ2回目の任期(第96〜98代内閣総理大臣)は、憲法に違反する法改正(組織犯罪法における共謀罪、安全保障関連法等)を繰り返しながら、「モリ・カケ・サクラ」と言われたような金銭疑惑を残した。そして再度、病気を理由に職務を放り出し、多くの疑惑に正面から答えることなく、首相の座を明け渡した。とくに財務省の記録を改ざんし、自殺者を生み出すまでして事実を隠ぺいした安倍元首相の疑惑は大きいが、もはや闇の中にある。他方で、外交に多大な功績を残したとあるが、これまでの懸念材料であった「領土・基地・朝鮮半島問題」に大きな進展はない。
安倍内閣は憲法の改正を望んできたが、現実に憲法の核心部分は徐々に削られてきたことになる。

 3  岸田内閣は、この国葬を今度は内閣法制局の示唆を受けて、内閣府設置法の4条にある「所掌事務」として形式的に実施しようとしている。国葬の実施は政府が主体となる国事行為であるから明確な法的根拠を必要としている。ところが、法4条3項33号は、「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること」を内閣府が関わりうることを定めた限りであって、国葬という実体を定めているわけではない。
 国葬の実施はいかなる場合になされるかという要件を定めた法規があることを前提としてでなければ、この法4条3項33号の実施は不可能である。さらに、国の最高機関である国会が関わる余地は、内閣府設置法からはなんら見えてこない。ここに手続き上の明白な違反があり、これは法治主義に違反することになる。しかし、形式だけを整えても、国葬は実体的に憲法に反する問題をもっている。

 4  内閣官房⻑官の説明では、「国葬の当日公立学校は休日にはしない」とあるが、政府が実施しテレビ放映による映像が流れることによって、社会が受ける反応には大きな影響が起こりうる。国⺠に時間を指定して哀悼の気持ちを求め、公的機関での半旗の推奨もありうる。現時点で、文部科学大臣が国公立大学に求めている「国旗掲揚」の行政指導が、強く、広範囲で実施されるおそれがある。こうしたことは全て日本国憲法19条が保障する「思想・良心の自由」に抵触することになりかねない。この自由は「内心の自由」に当たり、個人の思考の核心部分を保障するものであり、これへの制約は厳しく審査されなければならない。とくに、学校行事として国葬への参加が強制されることのないように気を付けなければならない。場合によっては、憲法20条に保障された信教の自由や21条に保障された表現の自由を侵害することにもなりうる。
 こうした国葬は強制がなんらないと言われるが、自己の信念に反する国葬が実施されるという事実をもって、国⺠の各人がもつ人としての在り方、「個人としての尊重」(憲法13条)への侵害が生じるおそれがある。

 5  財政的には現在試算がされているが、これを財務大臣は予備費から支出するとしている。しかし、警備も徹底するとなればかなりな費用を必要とするであろう。金額の問題もあるが、問題は予備費の使われ方にある。
 本来は大災害、コロナ対応等の不測の事態にあてるべきであり、国会での審議を求めるのが筋であろう(憲法83条)。また、公費をすでに私人となってしまった個人の死に振り向けることには、その妥当性がないといえるのではないだろうか(憲法89条)。
 宗教性を払しょくして行うとしているが、個人の死に関係することであるから宗教儀式の一環と受け止める国⺠も多いはずである。これを国家が私人に代わって国費で実施することが異常なのであり、国が実施することに格別の政治的な効用があると推定されてしまう(憲法20条3項、89条の政教分離原則)。
 もしも、国葬をもって死者を必要以上に美化し、それを国⺠の記憶に残し、政治的効果を意図し、現政権の継続を願うものであれば、そのことこそ国家の行為を厳格に制約しようとする、日本国憲法の立憲主義の構造に反することになるおそれがあると考えられる。
                             以上

           賛同者  2022.8.3 15:00現在  84名


浅野宜之  関⻄大学教授      足立英郎  大阪電気通信大学名誉教授   飯島滋明  名古屋学院大学教授
井口秀作  愛媛大学教授      石川多加子  金沢大学教員        石村修  専修大学名誉教授
井田洋子  ⻑崎大学        稲正樹  元国際基督教大学教員      植野妙実子  中央大学名誉教授
植松健一  立命館大学教授     右崎正博  獨協大学名誉教授       浦田賢治  早稲田大学名誉教授
江原勝行  早稲田大学教授     大久保史郎  立命館大学名誉教授     大津浩  明治大学法学部教授
岡田健一郎  高知大学教員     奥野恒久  龍谷大学           小栗実  鹿児島大学名誉教授
小沢隆一  東京慈恵会医科大学教授 小野善康  岩手大学名誉教授       金子勝  立正大学名誉教授
上脇博之  神戶学院大学      河上暁弘  広島市立大学准教授      川畑博昭  愛知県立大学教員
木下智史  関⻄大学教授      君島東彦  立命館大学教授        清末愛砂  室蘭工業大学大学院教授
倉田原志  立命館大学教授     倉持孝司  南山大学教授         小竹聡  拓殖大学教授
後藤光男  早稲田大学名誉教授   小林武  沖縄大学客員教授        小林直樹  姫路獨協大学教員
小松浩  立命館大学教授      木幡洋子  愛知県立大学名誉教授     近藤真  岐阜大学名誉教授   
笹沼弘志  静岡大学教授      斎藤一久 名古屋大学教授         ⻫藤小百合  恵泉女学園大学教員
榊原秀訓  南山大学教授 澤野義一  大阪経済法科大学特任教授 清水雅彦  日本体育大学教授
菅原真  南山大学教授 鈴木真澄  龍谷大学名誉教授 高佐智美  ⻘山学院大学教授
高作正博  関⻄大学教授 高橋利安  広島修道大学名誉教授 高橋洋  愛知学院大学名誉教授
竹内俊子  広島修道大学名誉教授 竹森正孝  岐阜大学名誉教授 田島泰彦  元上智大学教授
多田一路  立命館大学 塚田哲之  神戶学院大学教授 常岡(乗本)せつ子  フェリス女学院大学名誉教授
内藤光博  専修大学教授 中川律  埼玉大学准教授 中里見博  大阪電気通信大学教授
中島茂樹 立命館大学名誉教授 中富公一  広島修道大学 永田秀樹  関⻄学院大学名誉教授
永山茂樹  東海大学教員 成澤孝人  信州大学教授 成嶋隆  新潟大学名誉教授
二瓶由美子 元桜の聖母短期大学教授 丹羽徹  龍谷大学教授 根森健  東亜大学大学院教授
波多江悟史 愛知学院大学法学部専任講師 畑尻剛 日本比較法研究所客員研究所員 藤野美都子 福島県立医科大学特任教授 福嶋敏明  神戶学院大学教授 古野豊秋  元・桐蔭横浜大学教授 前原清隆  元⻑崎総合科学大学教員
松井幸夫  関⻄学院大学名誉教授 松原幸恵  山口大学准教授 水島朝穂  早稲田大学教授
宮地基  明治学院大学教授 村田尚紀  関⻄大学教授 元山健  龍谷大学名誉教授
門田孝  広島大学教授 山内敏弘  一橋大学名誉教授 若尾典子  元佛教大学教授
脇田吉隆  神戶学院大学准教授 渡辺治  一橋大学名誉教授 和田進  神戶大学名誉教授



▼安倍晋三元内閣総理大臣の「国葬」に反対し、撤回を求める会長声明
2022年08月02日

                                    東京弁護士会 会長 伊井 和彦

 1 2022年7月8日、安倍晋三元内閣総理大臣(以下「安倍元首相」という)が、参議院選挙の街頭応援演説の最中に銃撃され死亡した。当会は、このような選挙の応援演説中の政治家に対する銃器等を用いた襲撃は、加害者の動機等に関わらずその行為自体が民主主義に対する重大な脅威であると判断し、これを糾弾し抗議する会長声明を本年7月11日に発した。
 しかしながら、岸田内閣が、本年9月27日に安倍元首相の「国葬」を行うと決定したことについては、民主主義の観点からも、また国民の思想・信条の自由の観点からも、重大な懸念があり、これに反対するものである。
 1人の政治家の死を葬儀の場で悼むことは、主義主張に関わりなく行われて然るべきであるが、安倍元首相の葬儀は既に親族において執り行われている。それにもかかわらず、政府が敢えてそれとは別に、閣議決定により「国葬」という儀式を執り行う意味が、問われるべきである。

 2 そもそも「国葬」は、明治憲法下においては天皇の勅令である「国葬令」に基づき行われていたが、「国葬令」は憲法に不適合なものとして「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」第1条に基づき1947年の終了をもって失効しており、「国葬」を行うことについても、その経費を全額国費から支出することについても、現在は法的根拠がない。
 1967年に吉田茂元首相の「国葬」が実施された際には、翌年の国会答弁で当時の大蔵大臣が「法的根拠はない」と答弁しており、1975年に佐藤榮作元首相が死亡した際に「国葬」の実施が検討されたときも、「法的根拠が明確でない」とする当時の内閣法制局の見解等によって見送られた経緯がある。
 政府は、今回「国葬」を行う法的根拠について、内閣府設置法(1999年制定)第4条3項33号で内閣府の所掌事務とされている「国の儀式」として閣議決定をすれば実施可能との見解を示しているが、そもそも内閣府設置法は内閣府の行う所掌事務を定めたものにすぎず、その「国の儀式」に「国葬」が含まれるという法的根拠もない。
したがって、政府が経費を国費から支出して「国葬」という形の儀式を行うことは、法的根拠がない以上、認められない。

 3 また、政府は、安倍元首相を「国葬」とする理由について、「歴代最長の期間、総理大臣の重責を担い、内政・外交で大きな実績を残した」などとしているが、政府が特定の政治家についてその業績を一方的に高く評価し、その評価を讃える儀式として「国葬」を国費によって行うことは、その政治家に対する政府の評価を国是として広く一般国民にも同調を求めるに等しい。その政治家への評価は、主権者たる国民の一人ひとりが自らの意思で判断すべきことである。

 政府は、今回の安倍元首相の「国葬」においては、国民に対し弔意の表明や黙祷等は求めないとしているようであるが、戦後唯一の「国葬」となった1967年の吉田茂元首相の「国葬」の際には、「歌舞音曲を伴う行事は差し控える」「会社、その他一般でも......哀悼の意を表するよう期待する」との閣議決定がなされ、テレビ・ラジオでは娯楽番組の放送が中止され、全国各地でサイレンが鳴らされ、学校や職場で黙祷が事実上強要された事案も発生した。

 今回も「国葬」が近くなれば、安倍元首相の「国葬」に対する忖度から、公的機関のみならず民間機関に対しても同様の有形無形の同調圧力がかかることは容易に予想され、弔意の表明の事実上の強制が行われかねない。現に、兵庫県や北海道の一部自治体の教育委員会が学校現場に「国葬」の際の半旗の掲揚を求めたという報道もあり、忖度と同調を求める動きは今後も拡がることが予想される。

 このように「国葬」の実施は、国民に対して特定の個人に対する弔意を事実上強制する契機をはらむものであり、国民の思想・良心の自由(憲法第19条)との関係で好ましくない状況がもたらされかねない。

 4 当会は、安倍元首相の在任中に行われた教育基本法改正、イラク特措法の延長、教育三法改正(以上第一次安倍内閣)、特定秘密保護法制定、労働者派遣法改正、集団的自衛権行使を容認する閣議決定、安全保障関連法の制定、共謀罪の制定、検察庁法の改正(以上第二次安倍内閣)等について、立憲主義及び憲法の基本理念に反するという立場から反対する旨の会長声明等を繰り返し発出してきた。
 特に集団的自衛権の容認と安全保障関連法の制定については、当会を含む全ての弁護士会が一致して明白に違憲として反対し、現在もその廃止を求めている。それにもかかわらず、これらの安倍内閣の各政策を国に対する功績と評価して安倍元首相の「国葬」を行うことは、立憲主義及び憲法の基本理念を揺るがすものであり是認できない。

 また、安倍元首相が在任中及び退任後も声高に主張し、今後の国会における争点となり得る「憲法9条への自衛隊の明記」「緊急事態条項の設置」等の改憲や敵基地攻撃能力保持等の議論においても、「国葬」によって安倍元首相の意見を国是のように扱うことが起りかねない危惧もある。

 5 当会は、安倍元首相の「国葬」にはこのような憲法理念上の問題点が多々あることから、これに反対し、政府に撤回を求めるものである。
            2022年08月02日

                                    東京弁護士会 会長 伊井 和彦




▼ <声明> 安倍元首相の賛美・礼賛、国民への弔意の強制に繋がる「国葬」に強く反対し、撤回を求める
                
                                       憲法会議

 安倍晋三元首相が無法な銃撃で殺害されたことについて、憲法会議は、政治活動や言論を暴力で封殺することは、民主主義を破壊する最も憎むべき行為であり、個人の尊厳を否定する憲法問題として断固糾弾します。憲法会議は、あらゆるテロ行為を許さない社会をつくるために、多くの国民の皆さんとともに全力をつくす決意です。

 岸田首相は7月14日、安倍元首相の「国葬」を行うと発表しました。これが戦前やられたような宗教行為としての国葬なら、憲法第20条第3項の「国の宗教活動の禁止」に反する行為です。岸田首相は、今回、国の儀式に関する事務を所掌として定めた内閣府設置法に基づき、「閣議決定を根拠として行政が国を代表して行える」と説明し、全額国費で負担する方針を明らかにしました。しかし、元首相の葬儀を行うことや、政府がその経費を支出する法的な根拠や基準はありません。

 また、岸田首相が「国葬」とする理由に様々な「実績」をあげ、「そのご功績は真にすばらしいものがある」と述べたことを、憲法会議は厳しく糾弾するものです。安倍元首相が行った改憲策動、集団的自衛権の容認・南スーダン等への自衛隊派兵、桜を見る会等に象徴される政治の私物化、118回のうそ答弁に象徴される国会軽視、大軍拡・敵地攻撃能力保有など米国と一体の戦争する国づくり推進などの安倍政治は厳しく批判しなければなりません。

 「国葬」は、国民のなかで評価が分かれている安倍氏の政治的立場や政治姿勢を全面的に公認し、国家として安倍政治を賛美・礼賛することになります。また、安倍元首相に対する弔意を、国民に対して事実上強制することにつながる憲法問題です。弔意は、示すかどうかも含めて、すべて内心の自由の問題であり、憲法第19条「思想及び良心の自由」違反です。

 これまで、国民の税金を投入し、戦後に国葬が行われたのは1967年の吉田茂氏のみで、法的根拠となる「国葬令」は1947年に失効したものの、吉田氏の国葬は例外的に行われました。それ以降、首相経験者の国葬は一度もありません。今回の国葬は、失効した「国葬令」を実質的に復活させ、「戦争する国」づくりに組み込むものといえます。

 死を悼む民心に漬け込み、戦争を賛美した戦前のように、国民の精神を安倍元首相が推進し、岸田首相が継承する「戦争する国づくり」に動員することは断じて許されません。

 憲法会議は、安倍元首相の「国葬」に強く反対し、その撤回を求めます。

                          2022年7月20日 憲法会議(憲法改悪阻止各界連絡会議




▼【声明】 安倍元首相の「国葬」に反対する
                              2022年7月21日
                          許すな!憲法改悪・市民連絡会事務局長 菱山南帆子


 2022年7月22日の閣議決定により9月27日に安倍元首相の国葬が行われると言われています。

 安倍政権下で一部の大企業が儲かることによって格差が広がり、「雇用を増やした」と言っていますが実は非正規雇用が増え、経済優先のコロナ対策を進めた結果、非正規労働者の雇止めが増加し、自死や孤独死、路上生活者が後を絶ちません。

 さらに、教育基本法改悪、秘密保護法、安保法制、働き方改革、カジノ法、TPP 法共謀罪法と様々な悪法を強行してきました。

 森友学園、加計学園、桜を見る会などの政治の私物化、疑惑隠蔽、国会での118回にも及ぶ虚偽答弁。伊藤詩織さんへの性暴力を行った山口氏の逮捕状もみ消しなど実に許されない事件が沢山ありました。

 この間報道されているように「旧統一協会」と安倍元首相らの癒着が明らかになってきています。
悪質で違法な商法を隠ぺい擁護し、主張を政策に反映させた見返りに、人やモノや金を得るような政治を行ってきたことが、今回の山上容疑者の行動に繋がってしまったのではないでしょうか。

 このような金と利権の疑惑が次々と出てくる中で「国葬」の強行により「なかったことにする」わけにはいきません。

 またこのような「国葬キャンペーン」の中で「安倍元首相の悲願であった改憲を実現しよう」というような流れにさせてはなりません。

 岸田首相による安倍元首相の政治利用、改憲のための利用は許されません。
莫大な税金を投入し、1 人の人間を「国葬」という形で特別扱いし、全市民に「哀悼」を強制する「国葬」に反対します。
志を同じくする全国のひとりひとりの市民の皆さんがそれぞれの可能なやり方で安倍元首相の「国葬」に反対する行動に立ち上がるよう呼び掛けます。

        2022年7月21日
                          許すな!憲法改悪・市民連絡会事務局長 菱山南帆子

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