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2022/07/26
安倍国葬に反対 各界が声明
 安倍晋三元首相の銃撃死を受けて、政府は7月22日、安倍氏について「国葬儀」を実施することを閣議決定した。
決定前から、多くの団体が、それぞれの立場で、これに反対する声明を出している。順次紹介する。

 ▼故安倍元首相の「国葬」に反対する
                     2022 年 7 月 15 日 日本平和委員会

 昨日の記者会見で岸田首相は、銃撃による殺害という蛮行によって命を奪われた安倍晋
三元首相について、この秋に「国葬儀」の形式で葬儀を行うことを表明した。その理由とし
て、安倍氏の「東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸にした外交の展
開などの大きな実績」を称えるためとしている。

 私たちは、参議院選挙の最中に行われた安倍氏の銃撃殺害事件に対し、自由と民主主義を
根本から破壊する蛮行と糾弾し、満身の怒りを込めて抗議した。また、その非業の死に対し
ては、心からの哀悼の意を表するものである。
 しかし、「国葬」とは、国民の税金、貴重な国費を使って亡くなった人の「功績」を称賛
し、そうした特定の評価を国民に押し付けることに他ならない。これは、日本国憲法の定め
る国民主権、思想・良心の自由と民主主義の原則とは全く相容れないものである。私たちは
「国葬」の実施に強く反対するものである。

 私たちは特に、安倍首相の「日米関係を基軸にした外交の展開」を評価することには絶対
に同意できない。安倍首相は、自らの「血を流す同盟」づくりの信念の下に、閣議決定で、
憲法解釈を集団的自衛権行使可能なものに変更し、国民の強い反対を押し切って安保法制
(戦争法)を強行し、立憲主義を根本から破壊した。さらに、首相在任中に勝手に「敵基地
攻撃能力」保有に向けた新たな安保政策策定を指示し、それが今日の「敵基地攻撃」大軍拡
推進、軍事費倍増の動きにつながっている。私たちは日本国憲法を破壊するこのような「実
績」を評価することは到底できない。

 国民の中には、様々な意見があり得るにもかかわらず、政府の一方的な評価のみによって
「国葬」の実施を国民に押し付け、その儀式を国民の血税を使って行うようなことは、決し
て許されない。日本国憲法の原則に立って、私たちは強く表明するものである。


 ▼安倍晋三元首相の「国葬」に反対する
                          2022年7月21日 日本民主法律家協会
1 安倍氏の銃撃と死去

 今月8日、安倍晋三元首相が遊説先の奈良市内で街頭演説中に銃撃され死亡する事件が生じた。同日、犯行の動機や背景は一切明らかになっていない段階で、当協会は、「言論を封殺する暴力行為は断じて許されない」とする立場から、この蛮行を糾弾する声明を発し、併せて「安倍氏のご冥福を心よりお祈りする」旨の弔意を表明した。
 その後、銃撃犯の供述とされる報道からは、犯行の動機については思いがけない展開を見せてはいるが、当協会の今月8日付声明の立場にはいささかの変更もないことを確認しておきたい。

2 安倍氏への疑惑追及の手を緩めてはならない

 しかし、死者への弔意を表明することは、けっして当該人物の生前の業績を称賛するものでも美化するものでもない。当協会は、憲法「改正」を主とする数多くの政治課題において安倍氏を厳しく批判し対決する立場を貫いてきた。また、その政治家としての廉潔性を欠いた姿勢や目に余る国会での虚偽答弁を批判し、安倍氏にまつわる「モリ・カケ・桜」など数々の疑惑の解明に努力を重ねてもきた。安倍氏が亡くなったことで、安倍氏に対する批判や疑惑追及の姿勢を緩めるようなことはない。さらに、本件犯行の動機とされている旧統一教会と安倍氏の関係の徹底解明も、新たな課題として疎かにしない。
 このことは、当協会のみならず多くの人々の共通の思いであろう。

3 国論を二分させた政治家への国葬は国民的同意を得られない

 ところが、7月14日、岸田文雄首相は記者会見において、まことに唐突に「今秋、安倍氏の葬儀を国葬儀として行う」と発表した。その理由については、「(安倍氏の)ご功績は誠に素晴らしいもの」とした上で、「国葬儀を執り行うことで、我が国は暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜くという決意を示していく」と述べている。さらに、同月20日、政府は9月27日に安倍氏の国葬を行う予定であると発表し、明日にも閣議決定すると言われている。
 こうした国葬は、安倍氏とその政治路線を賛美するものとなり、その批判を封じる効果をもたらすことになる。とうてい納得し得ない。
 安倍氏ほど毀誉褒貶激しい人物は他にないであろう。安倍氏について、特定の政治的立場からは「ご功績は誠に素晴らしいもの」とされることはあっても、けっしてこうした評価が全国的な国民的同意を得ることはない。むしろ、安倍氏は国民の政治的意見分断を象徴する政治家として記憶される人物である。
 また、本件犯行の動機が特定の政治的主張に基づくものでないことが、ほぼ判明した今、国葬の実行が「民主主義を断固として守り抜く」ことになるという論理にはなんの説得力もない。安倍氏の死を政治的に利用しようとの意図が色濃く浮かび上がる。

4 国葬の法的根拠は欠如している

 戦前、勅令として制定された「国葬令」は日本国憲法施行の際に失効しており、その後立法の気運はない。従って、国葬を行うべき法的根拠に欠ける。
 岸田首相は、内閣府設置法上の「国の儀式」に当たることを法的根拠としているようだが牽強付会というほかない。組織法である内閣府設置法第4条(所掌事務)第3項は、「内閣府は、…次に掲げる事務をつかさどる」として、第三十三号に「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること(他省の所掌に属するものを除く。)」としている。これは、内閣府が「(他省の所掌に属しない)儀式」についての分掌の規定に過ぎず、この条文を根拠として、政府が「国葬」を行うことはできない。
 なお、政府が、国葬ないしはそれに準ずる儀式を行うとすれば、まず「全国民を代表する選挙された議員」(憲法43条1項)で組織された国会に諮って、国民の目の前で賛否両論の議論をつくすのが当然であり、この議論こそが「民主主義を断固として守り抜く」にふさわしい。この手続きを欠いた「国葬」は、一党一派に国の権威を付与し、国費を掠めとろうとするものとの批判を免れない。

5 国葬への国費支出は国民の思想信条の自由を侵害する

 また、国葬は全国民に安倍氏に対する弔意を求めるものとならざるを得ない。その費用を国費から支出する点においては、全国民に対して弔意に伴う経済的な負担を強制することにもなる。いうまでもなく、安倍氏とは自由民主党という保守派の特定政党の党首であった人物であり、日本国憲法の「改正」を最も強く主張してきた政治家でもある。
 その政治家の国葬を行うことは、全国民に対して、特定の政治的立場をもった人物への弔意を求めることであり、費用の負担を通じて弔意を強制することでもある。これは、憲法が全国民に保障する思想良心の自由(憲法第19条)を、政府(行政権)自らが侵害することにほかならない。
 政府には、特定政党への政治献金のための特別会費強制徴収決議を無効とした、南九州税理士会事件における1996年3月19日最高裁判決の次の説示(要約)に、真摯に耳を傾けていただきたい。
 「強制加入の税理士会の会員には、様々の思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。したがって、税理士会の活動にも、会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある」
 もとより、国民には思想良心の自由が保障されている。日本国憲法の理念を普遍的な価値とする信条を持つ者、とりわけ憲法的理念を自らの人格の中枢に位置すると自覚する者にとっては、憲法をないがしろにし、憲法「改正」を先頭に立って主張してきた安倍氏に対して、礼賛の儀式を国が行うことに耐えがたい苦痛を禁じえない。政府による国葬の強行は違憲・違法のおそれ濃厚と言わねばならない。

6 国葬の実施により、人権は制約され、安倍氏への追及も抑制されかねない

 国葬が実施されれば、歌舞音曲の「自粛」が強制され、交通規制や立入規制が行われ、表現の自由や集会・行動の自由(憲法第21条)が抑圧されることになりかねない。そして、このような憲法上大いに問題である「国葬」が「適法な公務」として執行されることになるので、これに抵抗することや反対することが「公務執行妨害」として犯罪とされるおそれも否めない。
 さらに、国葬を通じて安倍氏の礼賛がなされることによって、安倍氏に対する批判や疑惑追及が規制されるおそれがあり、この点からも表現の自由・集会の自由が正当な理由なく抑制され、萎縮させられるおそれがある。

7 安倍氏の国葬に反対する

 当協会は、以上の理由で安倍氏の国葬に強く反対する。
 これから犯行の背景が解明され、事実関係が明らかになるにつれて様々な意見が活発になることが想定される状況において、国葬を強行することは、これらの多様な意見の表出を抑圧することになる。したがって国葬の強行は、国民世論を分裂させ、大きな混乱をもたらすおそれは否めない。
 私たち日本民主法律家協会は、政府に対して、すみやかに国葬の予定を撤回し、また閣議決定をしないよう強く求めるものである。

  2022年7月21日

               日本民主法律家協会 理事長 新倉  修
                        事務局長 大山 勇一


 ▼安倍晋三元内閣総理大臣の「国葬」に反対する議長声明
                                   2022年7月21日
                                   青年法律家協会弁護士学者合同部会


 一 2022年7月8日、安倍晋三元内閣総理大臣(以下、「安倍元首相」という。)が、奈良県において選挙運動で演説中に狙撃され、死亡する事件が発生した。
 2022年7月14日、岸田文雄内閣総理大臣(以下、「岸田首相」という。)は、安倍元首相について「憲政史上最長の8年8か月にわたり、卓越したリーダーシップと実行力をもって総理大臣の重責を担い、東日本大震災からの復興や日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開などさまざまな分野で実績を残すなど、その功績はすばらしいものがある」などとしたうえで、「この秋に『国葬儀』の形式で、安倍元総理大臣の葬儀を行うこととする」と表明した。その際の費用は全額国庫が負担するものとされている。

 二 安倍元首相が総理大臣として行った数々の「実績」は、岸田首相が言明したものとはむしろ全く逆のものであった。
 安倍元首相は、森友・加計問題、桜を見る会問題で政治の私物化を行った疑惑の渦中にある中心人物であり、これらの疑惑は未だその真相は解明されていない。我が国を戦争のできる国家にするための布石である集団的自衛権の政府解釈変更、特定秘密保護法や安保法制などでの強行採決も行った。安倍元首相は、その推進する政策や疑惑に対する答弁において、丁寧な説明と評価できる国会答弁や記者会見での言明を行わず、国民に対し正しい情報提供をしなかった。加計学園問題をめぐって憲法53条に基づいて野党側が臨時国会の召集を求めた際に、これに応じることもしなかった。
 このように、安倍元首相は、その在任中、我が国の民主主義を踏みにじる行動を続け、そのことに無反省な態度を取り続けた。
 当部会も、こうした観点から何度も安倍元首相の言動、あるいは安倍元首相の主導する政府の行動を批判してきたものであり、岸田首相の安倍元首相の「実績」にかかる上記言明は誤りである。

 三 安倍元首相について「国葬」を行うことは、安倍元首相が行ってきた上記行為を国として正当なものと評価し、国と国民をあげて安倍元首相を追悼することが正しいということを国が国民に押し付けることになる。死者をどう弔うかは個人の意思に委ねるべきことであり、「国葬」による押し付けは、思想良心の自由に反する。「国葬」に伴って学校や行政機関で半旗の掲揚や、黙祷などが強制される事態になれば、強制される者の内心の自由に対する侵害となることは明らかである。
 そもそも、国民主権の理念に基づく日本国憲法下においては、安倍元首相の行動は国民の代表者としてのそれであり、王権社会における国王のごとき特別な地位に基づくものではないから、「国葬」によって安倍元首相を弔う行為は、民主主義の理念や、平等原則にも反するものである。

 四 岸田首相は、国葬の法的根拠について、内閣府設置法に内閣府の所掌事務として定められている「国の儀式」として閣議決定をすれば実施可能との見解を示している。
 しかし、明治憲法下では「国葬令」が定められ、これに基づき「国葬」が行われていたが、「国葬令」は1947年に廃止された経緯がある。これに照らせば、「国葬」が内閣府設置法にいう「国の儀式」に当然に含まれると解することはできず、内閣の判断のみで議論もなく「国葬」に国費を支出することは、財政支出に国会の議決を要するとしている憲法83条に反する。

 五 このように、岸田首相が表明している安倍元首相について「国葬」を行うことは、憲法違反を含むものであって、かつ、憲法上の人権侵害をもたらすものである。
 以上により、当部会は安倍元首相について「国葬」を執り行うことに反対し、政府に対し、「国葬」の方針を撤回することを求める。

           2022年7月21日

                  青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長  笹山 尚人


 ▼戦後最悪の政治をすすめた安倍元首相の国葬に反対する
                                       東京革新懇声明
                               2022年7月22日  東京革新懇代表世話人会

 岸田首相は、7月14日、参議院選挙期間中に銃撃を受け死亡した安倍元首相の国葬を秋に行うと唐突に発表した。国葬令は、政教分離や思想信条の自由等を定めた日本国憲法の制定により失効し、国葬の法的根拠は一切無くなっており、全額国費により国民に追悼を強いることが出来る国葬は、行うことはできない。
  岸田首相が、「安倍元首相の思いを受け継ぎ」難題に取り組むとして、改憲の推進と路線の継承を表明しているように、改憲、大軍拡、専守防衛を放棄する敵基地攻撃能力の保有、アベノミクス、社会保障改悪を継承し推進しようとしている。国葬の実施はその路線を美化し、推進を図ろうとするよこしまなねらいが込められていると断じざるを得ない。
  そして、安倍元首相の8年8ヶ月に及ぶ戦後最悪の悪政とたたかい続けてきた我々は、その政治を美化し、継承し推進を図ろうとする国葬を認めることはできない。 では、安倍悪政とはなんであったか。
 その最大のものは、日本国憲法のもとで、政府が憲法上許されないと一貫して否定してきた集団的自衛権を、閣議決定で容認に解釈を変え、さらにその解釈を法制化する安全保障関連法を多数で押しきったことであり、フルスペックの集団的自衛権をめざし改憲の旗を振り続けたことである。それは、アメリカ軍の第二軍として自衛隊を海外の戦争に動員する道であった。沖縄の民意を踏みにじって、辺野古新基地建設をゴリ押ししたことも指摘せざるを得ない。
  第二に、日本の民主主義を破壊する特定秘密保護法、共謀罪を強行し、マスコミへの統制の強化、教育への介入を強めたことである。
  第三に、アベノミクスと称して、新自由主義に基づく経済政策を進め、2度にわたり消費税増税と法人税減税を繰り返し、大企業の内部留保が133兆円増えて466兆円に達し、富裕層の資産が急増した一方で、働く人の実質賃金が年22万円減少した。このことに象徴されるように、大企業、金持ち優遇の政治であり、格差と貧困を広げ、成長出来ない国にした。
  第四に、「全世代型社会保障」を掲げ、世代間対立を煽りながら、年金、医療、介護、生活保護など社会保障の切り捨てをすすめた。
  第五に、森友・加計学園、桜を見る会など、露骨な国政の私物化、公文書の改ざん・隠ぺいを引き起こし、内閣人事局を通じた官僚統制を強め、かつてない国政の劣化をすすめた。 このような安倍政治を、国葬で美化することは、悪政の本質を覆い隠し、国民の中に分断を持ち込むものである。
  東京革新懇は、テロは許しがたいものであることを表明するとともに、安倍元首相の国葬に強く反対し、その撤回を要求するものである。                                  以上


 ▼岸田内閣による安倍晋三元首相の国葬に反対する声明            自由法曹団 
                                     2022年7月21日
 


 岸田首相は、本年7月14日、今秋に安倍晋三元首相の国葬を執り行うことを表明し、報道によれば明日にも閣議決定がされる見通しとのことである。
 国葬は、国が個人の葬儀を主宰し、その費用に国費をもって充てるものであり、戦後は一例を除いて実施されることはなかった。こうしたことから安倍元首相の国葬をおこなうことについて、賛否は大きく分かれており、これを強行することは以下に述べる通り、法的にも社会的・政治的にも重大な問題をはらんでいることから、自由法曹団は強く反対する。

【法令上の根拠がなく財政立憲主義に反するおそれ】
 現在、国葬について定めた法令は存在しない。もともと戦前においては、1926年に制定された勅令(国葬令)に国葬に関する定めがあったが、この勅令は、憲法に不適合なものとして「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力に関する法律」1条に基づき失効している。
 戦後唯一の例外として挙行された吉田茂元首相の国葬に関しても、塚原敏郎総務長官(当時)は「根拠になる法律もなく苦労した」と述べている。また佐藤栄作元首相に関し、国葬の実施が検討された際も、「法的根拠が明確でない」とする内閣法制局の見解等によって見送られた経緯がある。このように国葬に法的根拠のないことは明らかであり、岸田首相が内閣設置法の内閣の所掌事務として「国の儀式」にあたるとして、閣議決定があれば実施可能とした解釈は到底認められない。
 このように法令上の根拠のないまま内閣の独断でこれを行うことは、政治的思惑に基づく国費の恣意的支出との批判を免れず、「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」(憲法83条)とする財政立憲主義の観点から許されない。

【国民の思想・良心の自由に反するおそれ】
 安倍元首相は一政党に属する国会議員であるが、その葬儀を国が主催し、国費を支出することは、個々人が故人を悼むこととは異なり国家として当該個人への弔意を表すものである。したがって、すべての国民が当該国会議員への弔意を事実上強要されることになりかねず、さらには当該政党への献金を強制されたに等しい効果を及ぼす。実際に、吉田茂元首相の国葬の際には、「国民をあげて冥福を祈る」の大号令の下、競馬や競輪などの公営競技が中止となり、娯楽番組の放送が中止され、全国各地でサイレンが鳴り響かされて職場や街頭で黙とうがささげられる、という事態が生じている。
 すでに、安倍元首相の葬儀にあたり、弔旗を掲げたり、記帳台や献花台を設置したりした自治体もあり、兵庫県三田市の教育委員会のように学校現場において半旗の掲揚を求めた事例も生じている。政府が国葬を実施すれば、こうした傾向がさらに助長されることが懸念され、こうした弔意の強制は、思想・良心の自由(憲法19条)に反するものであり許されない。

【安倍元首相への批判を封じ、市民の中に分断をもたらすおそれ】
 岸田首相は、安倍元首相につき「東日本大震災からの復興や日本経済の再生、日米同盟を基軸とした外交の展開など様々な分野で実績を残すなど、その功績は素晴らしいものがある」と持ち上げ、それを国葬の理由としているが、それこそ賛否が大きく分かれるものである。
 安倍元首相はその在任中の2014年7月、政府が長らく専守防衛の範囲を超える集団的自衛権の行使は憲法違反となるとしてきた立場を変更する閣議決定を強行し、2015年には集団的自衛権行使を容認した安保法制を、多くの国民の反対の声を押し切って成立させた。また民主主義の基盤を根底から揺るがす特定秘密保護法の成立を強行し、「世界で一番企業が活動しやすい国にする」として掲げたアベノミクスにより、国民の中の貧富の格差を著しく拡大させた。さらに、森友・加計学園問題、「桜を見る会」等にみられる政治の私物化にかかわる疑惑等を首相自らが引き起こした上、国会で虚偽答弁を繰り返した結果、未だその真相は明らかとなっていない。さらに自殺者まで出した行政文書の改ざん問題についても、未解決なままである。こうした安倍元首相の「業績」については我々も都度批判してきたところであり、死亡によって「なかったこと」にすることは到底できない。未解決の問題については引き続き真相究明や検証が行われなければならず、安倍元首相への正当な批判が封じられることになっては決してならない。
 しかし、実際には安倍元首相への批判に対する攻撃は起きており、安倍政権の後継である岸田政権を批判する街頭宣伝をしている人々に対する妨害も発生している。また北海道警が安倍元首相の演説中にヤジを飛ばした聴衆をいきなり排除した事件で、裁判所が道警の措置を違法と判断したことが警護をやりづらくさせたとする言説や、銃撃犯が在日朝鮮人である等の事実無根のデマまでが流布されるなど根拠のない非難も起きている。
 こうした中で国葬を実施すれば、安倍元首相を礼讃するという実際上の効果をもたらすこととならざるを得ない。その結果、安倍元首相の批判への攻撃に拍車がかかり、市民間の分断を一層助長するおそれが強い。そうなれば自由な言論は保障されず、民主主義が危機に瀕することも懸念される。
 安倍元首相の国葬を行うことに反対する意見は、すでに各界各層から表明されており、拙速に閣議決定すべき問題でないことは明らかである。よって自由法曹団は、安倍元首相の国葬の実施に強く反対し、直ちに計画の撤回を求めるものである。

以上
            2022年7月21日          自由法曹団団長 吉田健一

 

Statement
opposing the state funeral of former Prime Minister Shinzo Abe by the Kishida Cabinet
                   

 July 21, 2022

Japan Lawyers Association for Freedom (JLAF)
President Kenichi Yoshida


 On July 14, Prime Minister Kishida announced that he would conduct a state funeral for former Prime Minister Shinzo Abe this fall, and according to media reports, a cabinet decision is expected tomorrow.
 State funerals, in which the state presides over a funeral of an individual, and the cost is paid for with state funds, were not practiced after the war, except in one instance. There is a wide divergence of opinion on whether or not to hold a state funeral for former Prime Minister Abe. JLAF strongly opposes it because of the serious legal, social, and political problems that would result from forcing such an action, as described below.

【Lack of legal basis and possible violation of fiscal constitutionalism】
 Currently, there are no laws or regulations governing state funerals. Originally, before the end of World War II, there was a provision on state funerals in the Imperial Ordinance (State Funeral Ordinance) enacted in 1926. However, this imperial decree has been revoked in accordance with Article 1 of the “Law Concerning the Validity of Provisions of Orders Currently in Force at the Time of the Enactment of the Constitution of Japan” 「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力に関する法律」as being incompatible with the Constitution.
 As for the state funeral of former Prime Minister Shigeru Yoshida, which was the only exception in the postwar period, Toshiro Tsukahara, then Director-General of the General Affairs Bureau, stated, “We had a hard time because there was no law on which to base the ceremony.” When the government considered holding a state funeral for former Prime Minister Eisaku Sato, the Cabinet Legislation Bureau’s opinion that “the legal basis was not clear” led to the decision not to do so. Thus, it is clear that there is no legal basis for state funerals, and Prime Minister Kishida’s interpretation that states funerals are “state ceremonies” under the jurisdiction of the Cabinet under the Law for Establishment of the Cabinet, and can be held if a Cabinet decision is made, is absolutely unacceptable.
 Such an arbitrary decision by the Cabinet, without legal basis, cannot escape criticism as an arbitrary expenditure of government funds based on political motives, and is impermissible by fiscal constitutionalism, which states that “the power to administer national finances shall be exercised as the Diet shall determine” (Article 83 of the Constitution). 

【May violate people’s freedom of thought and conscience】
 The fact that the government sponsors the funeral of former Prime Minister Abe, a member of the Diet who belongs to a particular political party, and pays for the funeral with government funds is an expression of the nation’s condolences to a particular person, as opposed to an individual’s mourning for a deceased person. Therefore, all citizens could be effectively forced to offer their condolences to a particular Diet member, and this would have the same effect as forcing them to donate money to a particular political party. In fact, at the time of the state funeral of former Prime Minister Shigeru Yoshida, under the grand order “the whole nation prays for the repose of his soul,” horse races, bicycle races, and other public sports were cancelled, entertainment programs were stopped, sirens were sounded throughout the country, and silent prayers were offered at work and on the streets.
 Some local governments already raised flags of condolence and set up a memorial table and flower offering stand at the time of former Prime Minister Abe’s private funeral, and there have been cases, such as the Board of Education of Sanda City, Hyogo Prefecture, which requested that flags be flown at half-staff at school sites. If the government implements the state funeral, there is concern that this trend will be furthered, and such forced condolences are in violation of the freedom of thought and conscience (Article 19 of the Constitution) and are not permissible.

【May block criticism of former Prime Minister Abe and create divisions among citizens】
 Prime Minister Kishida praises former Prime Minister Abe, saying that his achievements in various fields, such as recovery from the Great East Japan Earthquake, revitalization of the Japanese economy, and development of diplomacy based on the Japan-U.S. alliance, are outstanding, and that is the reason for his state funeral. However, that is exactly what the pros and cons are so widely divided on.
 In July 2014, during his tenure, former Prime Minister Abe forced through a cabinet decision to change the government’s long-held position that the exercise of the state’s right of collective self-defense which is beyond the scope of exclusive defense would be a violation of the Constitution, and in 2015 he passed the Security Law, which authorized the exercise of collective self-defense, over the objections of many citizens. He also forced the passage of the Act on the Protection of Specially Designated Secrets, which shook the foundations of democracy, and Abenomics, which was designed to “make Japan the easiest country in the world for corporations to operate,” has significantly widened the gap between the rich and the poor among the people. In addition, former Prime Minister Abe has brought about the Moritomo/Kake Gakuen issue, the “Cherry Blossom Viewing Party,” and other allegations of privatization of politics, and has repeatedly given false answers in the Diet, the truth of which has yet to be revealed. Furthermore, the issue of falsification of administrative documents, which even resulted in a suicide, remains unresolved. We have criticized former Prime Minister Abe’s “achievements” on numerous occasions, it is impossible to “pretend that they did not happen” due to his death. The unresolved issues must continue to be investigated and verified, and legitimate criticism of former Prime Minister Abe must never be allowed to be blocked.
 In reality, however, attacks on criticism of former Prime Minister Abe have occurred, as well as obstructions against those who are carrying out street demonstrations criticizing the Kishida administration, the successor to the Abe administration. There have been unfounded accusations that the court ruling that the Hokkaido police’s action was illegal in the case where the Hokkaido police suddenly removed an audience who yelled during a speech by former Prime Minister Abe made it difficult for the police to provide security for him. There have even been unfounded accusations, such as the spread of false rumors that the shooter was a Korean living in Japan.
 Holding a state funeral in this atmosphere would have to have an actual effect of glorifying former Prime Minister Abe. As a result, there is a strong risk that this will spur attacks on former Prime Minister Abe’s criticisms, further contributing to divisions among citizens. If this happens, free speech will not be guaranteed, and there is concern that democracy will be endangered.
 Opinions opposing the holding of a state funeral for former Prime Minister Abe have already been expressed from all walks of life, and it is clear that this is not an issue that should be decided by the Cabinet in a hasty manner. Therefore, JLAF strongly opposes the implementation of the state funeral for former Prime Minister Abe and calls for the immediate withdrawal of the plan.




2022/07/21
犯罪捜査の発表報道に偏せず、事件の社会的背景に迫る公正な調査報道を
――NHKに要望書
 公正な報道をするNHKを求めて、運動を続けている「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」(代表 醍醐 聡・東大名誉教授)は、安倍元首相の銃撃事件に関連して、放送内容についてのモニター結果を発表するとともに、要望書を提出しました。全文を紹介します。


2022 年 7 月 19 日
NHK会長 前田晃伸 様
NHKメディア総局長 林 理恵 様
NHK報道局長 山下 毅 様
NHKおはよう日本 番組制作担当 御中
NHKニュース7 番組制作担当 御中
NHKニュース・ウォッチ9 番組制作担当 御中
同報:
NHK解説委員室 御中
NHK放送文化研究所 御中
BPO(放送倫理・番組向上機構) 御中

犯罪捜査の発表報道に偏せず、事件の社会的背景に迫る公正な調査報道を
-安倍元首相銃撃事件をめぐる報道への要望と私たちの番組モニターのお知らせ-
            「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」
                               代表   醍醐 聰

安倍元首相銃撃事件をめぐるNHKの報道を視聴して、私たちは重要な点で放送法ならびに公共放送の使命から逸脱した点があると感じ、以下のとおり、今後の報道への要望を提出します。あわせて、以下のような要望を提出するにあたって、その根拠としたNHKの報道番組に関する私たちのモニター録を後段に添えますので、ご一読をお願いします。

Ⅰ 今後の報道への要望

(1)犯罪捜査の発表報道に偏せず、事件の社会的背景に迫る公正な調査報道を

 安倍元首相銃撃事件からこれまで 1 週間余のNHKの事件報道を視聴して強く感じるのは、犯罪捜査の発表報道に偏り、事件の社会的背景に迫る公正な調査報道がきわめて乏しいということです。選挙演説中に銃殺された安倍氏に哀悼の意を示すことと、事件の社会的背景を冷静な調査報道で自立的に報道することを明確に区別しなければなりません。
この 1 週間余のNHKのニュース番組は、警察当局による事件現場の検分、事件に至るまでの容疑者の足取り、警備の不備といった犯罪の裏付け捜査の進展、あるいは献花台に訪れた人々の様子を伝えることに大半の時間を割きました。元首相を標的にした犯罪である以上、こうした報道自体に異論はありません。しかし、今回の事件は、手段において弁護の余地がないとはいえ、個人の一方的な思い込みによるテロではなく、奥の深い社会的背景を伴った事件です。
これについて、私たちはNHKが、次のような事件の社会的背景について、独自調査・取材を尽くし、日々のニュース番組とともに、「クローズアップ現代+」や「NHKスペシャル」等において、質量ともに充実した報道をするよう、求めます。

 ① 容疑者の母親が入信した団体から信仰を大義名分にした霊感商法で多額の献金を求められたことが直接の原因となって破産し、家族が極度の困窮に追い込まれたことが犯行に至る容疑者の大きな動機となったとされています。同様の被害は以前から多数、報告されています。
 このような事件の社会的背景について、タイムリーな番組制作と放送を要望します。その際には、肩書にとらわれず、事件の社会的背景に造詣が深い弁護士やジャーナリストの出演も要望します。

 ② 社会的背景の第 2 は、安倍氏が標的なった動機の解明と教訓についてです。全国霊感商法対策弁護士連絡会が 2006 年 7 月 5 日に安倍氏宛てに送った抗議文書に記載されたとおり、安倍氏が内閣官房長官の肩書で、統一協会(当時)にエールを送ったことは、宗教に名を借りて反社会的な活動を続けていた団体にお墨付きを与えた行為です。
 さらに、安倍氏がこの警告を無視して、昨年 9 月に再度、「天宙平和連合」の大規模集会に、「各地の紛争の解決に努力してきた(統一教会教祖の)ハン・ハクチャ総裁をはじめ皆さまに敬意を表します」とビデオ・メッセージを送ったのを知って容疑者は、安倍氏を旧統一教会に「最も影響力のあるシンパの一人」(2022 年 7 月 17 日、ニュース 7)とみなし、これが、安倍氏襲撃の動機になったとみられています。
 そこで、安倍氏と旧統一教会あるいはその後継団体とのつながりを明らかにする番組の企画とタイムリーな制作・放送を要望します。

 ③ 社会的背景の第 3 は、旧統一教会およびその後継団体と政治家とのつながりです。
 旧統一教会は以前から、国会議員の事務所に秘書を送り込んだり、選挙活動を支援したりして、多くの政治家とつながりを深めていたとされています。であればなおさら、政治や行政が、「宗教」を名目に入信者をマインド・コントロールし、因縁による害悪を告知して恐怖に陥れて、多額の金銭を献金させる旧統一教会の不法行為を毅然と規制していれば、今回のような事件は防げた可能性があります。
 そこで、私たちは旧統一教会およびその後継団体と政治家とのつながりの真相に迫る番組の企画・制作・タイムリーな放送を要望します。

 ④ 2022 年 7 月 17 日付け『毎日新聞』に「銃撃容疑者 精神鑑定へ 奈良地検 動機に論理の飛躍」という見出しの記事が掲載されました。記事によれば、「捜査当局は山上容疑者の行動は計画的だったとする一方、安倍氏を狙った動機には論理の飛躍があるとみて」、「地検は起訴前に鑑定留置を裁判所に請求する必要があると判断した」とのことです。
 その一方で、記事は、容疑者が「家庭を壊した団体を国内に広めたのが安倍氏と思った」、「そもそも団体を日本に招いたのが岸氏で、その孫の安倍氏を狙うようになった」と供述しているとも伝えています。にもかかわらず、「地検や奈良県警は〔容疑者が安倍氏を〕一方的に敵視していた疑いがあるとみて、山上容疑者の精神状況についても慎重に調べる方針だ」と記しています。

 これについては、後段の「Ⅱ 私たちの番組モニターの要約」の「(1)容疑者の「思い込み」か?」の中で、全国霊感商法対策弁護士連絡会が安倍氏宛てに 2 度にわたり送った抗議書、警告書を紹介しながら、記したとおり、安倍氏が旧統一教会と深いつながりがあると容疑者が認識したのは思い込みではなく、相応の根拠があったことは明らかです。銃撃が許されない行為であるからといって、捜査当局は、安倍氏と旧統一教会と深いつながりがあった事実、安倍氏が旧統一教会の反社会的行動にお墨付きを与える言動をした事実をうやむやにすることは許されません。
 このような事実から目を背けて、容疑者が安倍氏を標的にしたのは論理の飛躍だとか、一方的思い込みだとかいった筋書きを立てて、それに沿うような精神鑑定を求めるのは見込み捜査、ひいては国策捜査となりかねない危険な動きです。
 私たちはNHKが、このような危険な捜査当局の動きを追認し、ひいては正当化するような発表報道に陥らないよう、強く申し入れます。

(2)安倍元首相の政治実績に関する公正な報道を -国葬をめぐって賛否の意見が交わされる中で-

 岸田首相が早々に表明した安倍氏の国葬に関して、目下、賛否の意見が起こっています。 国葬となれば、その根拠、経費負担のあり方などとともに、安倍氏の政治実績の評価が問われるのは当然です。この 1 週間のNHKの報道を見ますと、安倍氏への哀悼という心情を絡め、ゲストの選び方もあわせ、安倍政治の実績を情緒的に賛美する論調に偏向していたことは否めません。
 意見が対立しているこの問題について、ゲスト出演者の選び方も含め、できるだけ多くの角度から論点を明らかにし、事実にもとづいた報道をするよう、強く求めます。
 これについては、後段の番組モニター録で、主な事項ごとに、資料を添えて、NHKの報道の問題点を指摘していますので、ご参照ください。


Ⅱ 私たちの番組モニターの要約


(1)容疑者の「思い込み」か?

 2022 年 7 月 12 日、14 日、15 日のニュース7、7 月 15 日のニュース・ウォッチ9は、容疑者の伯父の証言として、母親が入信した宗教団体に多額の献金をして破産し、人生がめちゃくちゃになったことから、容疑者が宗教団体に恨みを募らせていたと伝えました。しかし、安倍氏を狙った動機については、「恨みを募らせた宗教団体に安倍元首相が近しい関係にあったと思い込んで事件を起こしたとみられている」と解説しました。はたして、容疑者の「思い込み」だったのでしょうか?
 全国霊感商法対策弁護士連絡会は 2006 年6月19日付で安倍氏が内閣官房長官の肩書きを付けて統一協会のダミー団体である天宙平和連合(UPF)の大会に祝電を送ったことについて公開質問状を送っています。これについて安倍氏がまともな回答をしなかったことから、同弁護士連絡会は同年 7 月 5 日に再度、安倍氏宛てに抗議文書を送っています。この文書の末尾では次のように記されています。

「本来、貴殿は、内閣官房長官として、統一協会のこうした反社会的な活動に対し、善良な市民を守るために適切な施策を講じる責任を負っているはずです。そうした役割を期待されている貴殿が、今回の行動により、逆に統一協会の反社会的な活動にお墨付きを与え、これを援助、助長していることについては、法律上も多大な問題を有すると指摘せざるを得ません。当連絡会は、貴殿に対し、反社会的な活動を行っている統一協会とのこれまでの関係をきちんと明らかにし、今後は統一協会との関係を絶つよう求めます。」
 しかし、安倍氏はこの抗議、申し入れを無視し、昨年 9 月、UPF の友好団体「天宙平和連合」の大規模集会にビデオ・メッセージを寄せ、「各地の紛争の解決に努力してきた(統一教会教祖の)ハン・ハクチャ総裁をはじめ皆さまに敬意を表します」とあいさつしています。
 容疑者はこのビデオ・メッセージを見て、安倍氏が今も旧統一教会と深い関係があると認識したことが安倍氏銃撃を決心する動機になったとみられています。
 ちなみに、前記弁護士連絡会は、安倍氏が昨年 9 月に天宙平和連合の集会にメッセージを送ったことに関し、昨年 9 月 17 日に安倍氏宛てに「衆議院議員 安倍晋三 先生へ」と題する警告書を送っています。しかし、安倍氏の議員会館事務所は受け取りを拒否、山口県の事務所からは回答がなかったとされています。
 このような事実経過を踏まえれば、安倍氏が旧統一教会と深いつながりがあると容疑者が認識したのは思い込みどころか、相応の根拠があったと言えます。銃撃が許されない行為であるからといって、NHKが事実経過と動機を歪めて伝えることは、独自取材で真実を伝えるべきメディアに許されません。

(2)稚拙な動機の解説

 7月15 日のニュース・ウォッチ9は、安倍氏銃撃に至った容疑者の動機を解説するコーナーを設け、犯罪心理学の専門家(片田珠美さん)と社会派作家(真山 仁さん)へのインタビューを放送しました。この中で、片田さんは次のように発言しました(字幕の要約)。
「容疑者にはゆがんだ特権意識がある。苦しい幼少年時代を過ごした人は、『自分には責任のないことでひどい目にあった』と受け止めやすい。『自分は不公正に不利益をこうむったのだから、人生に損害賠償請求をしてもいい』と考えやすい。」
 また、真山さんはこう発言しました(字幕の要約)。
「社会的にはこういう事件が起きる可能性は高かったと思う。ずっと給料が上がらないとか寝る間も惜しんで働いて生活を維持していると実感として持っている人は多かった。閉塞感や怒りや不満のマグマが社会の底流にはずっとあった。」
 こう述べた後、二人は、処方箋として、「孤立している人の見守り、相談窓口を紹介することが大事」(片田さん)。「立ち止まって自ら考える。」(真山さん)と語りました。
しかし、容疑者に強い恨みの意識があったことは確かだとしても、それは「ゆがんだ特権意識」でしょうか? 宗教に名を借りたマインド・コントロールにかかって母親が巨額の献金を強いられたのが原因で家庭が崩壊し、自分の死亡保険金で生活に困窮していた兄と妹を救おうと自殺を図ったこともあった容疑者が選んだ銃撃という手段は許されないとしても、それを「特権意識」によるものとみなすのは実態とずれた的外れな解釈です。また、片田さんが語った処方箋も抽象的で一般的過ぎます。真山さんが語った「閉塞感や怒りや不満のマグマ」も今回の事件の社会的背景を説明するには具体性に欠けています。
 肩書にとらわれず、事件の動機とその社会的背景をリアルに的確に解説できるゲストを選ぶことが重要だと痛感させられました。


(3)「判断は後世の史家に委ねる」でよいのか?

 2022 年 7 月 12 日のニュース・ウォッチ9は、「安倍元首相 何をめざし、何を残したか」と題して安倍氏の政治的実績を回顧しました。このコーナーには、安倍氏と同じ山口県出身で、安倍氏を支えた元自民党副総裁という肩書で高村正彦氏が出演し、初当選以来の安倍氏の人物像と安倍氏の政治実績(日本の安全保障に関する揺るぎない姿勢など)について、時間を割いて語らせました。
 インタビューの最後には、安倍氏の実績の負の部分とされる森友学園問題をめぐる決済文書の改ざん、加計学園をめぐる疑惑、桜を見る会をめぐる対応などにまとめて触れたものの具体的に疑惑に立ち入ることはなく、足早に素通りし、結びで高村氏の次のような発言を放送しました。
 「(安倍氏に)おごり、ゆがみがなかったというつもりはまったくない。」「それは後世史家が判断すると思う。」
 また、コーナーの最後で、安倍政治の功罪を問われた田中正良キャスターも、安倍元首相が「残したものについては歴史が判断することになります」と結びました。
高村氏の発言はさておき、NHKの看板報道番組のキャスターが元首相の政治実績について自ら語らず、後世の史家に委ねるとはどういうことなのでしょうか? 戦後の放送法の整備に尽力した荘 宏氏は自著の中でこう語っています。
 「(政治的公平に関する放送法の)規定は一見政治的な不公平を避ければよいとの消極的制限の規定にとどまるかのように見える。しかしながら政治的な公平・不公平が問題となるのは意見がわかれている問題についてである。そこで本号では第 4 号との関連において、単なる消極的制限のみの規定ではなく、政治的に意見の対立している問題については、積極的にこれを採り上げ、しかも公平を期するように各種の政治上の見解を十分に番組に充実して表現していかねばならないとしているものと解される。」(『放送制度論のために』1963 年、日本放送出版協会)136 ページ)
 このような先人の民主主義の発達に資する放送にかけた強い意志と熱意はどこへいったのでしょうか?
 なお、高村正彦氏はかつて統一教会の代理人であったことが裁判記録からも明らかになっています。また、1989 年の高村氏の資産公開では、統一教会の霊感商法の元締めであるハッピーワールドから時価 380 万円のセドリックを提供されたことが記載されています。(以上、参議院法務委員会、平成 10 年 9 月 22 日、会議録、参照)。このような高村氏の経歴に照らすと、旧統一教会と深い関わりがあった安倍氏の政治歴、人物像を語る番組に高村氏を出演させたニュース・ウォッチ9の番組制作は慎重さに欠ける点があったと言わなければなりません。


(4)安倍政治の実績をめぐる不公正な報道

 7 月 14 日のニュース7とニュース・ウォッチ9は、岸田首相が今秋に安倍氏の国葬を実施すると表明したのを受けて、安倍政治の実績を回顧するコーナーを設けました。そこでは、政府が安倍氏の国葬を執り行うことにした理由として、東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米同盟を基軸とした外交など、内政・外交で大きな実績を残したことを挙げたことをそのまま紹介するにとどまり、安倍政治の負の遺産は語られませんでした。しかし、安倍政治の負の遺産にとどまらず、功績についても評価が分かれているのが現実です。

 ① 安倍政治は東日本大震災からの復興にどのような実績を残したか?
 たとえば、東日本大震災からの復興について見ると、2021 年 3 月 11 日に放送されたNHK解説「東日本大震災10年 いまも続く原発避難者の苦悩」で飯野奈津子解説委員は、福島県から県外に避難している人は 2021 年 2 月 8 日時点で 2 万 8505 人、10 年経った時点でも、なおピーク時(6 万 2000 人余)の 45%が避難生活を余儀なくされている現実を指摘しています。
 また、2022 年 3 月 14 日に放送された「福島復興の到達点と課題」(NHK視点・論点)
に出演した川崎廣太氏(福島大学教授)は、福島県では 2020 年 3 月までに一部を除いて避難指示は解除されたものの、それから 1 年後の 2021 年 3 月現在、11 市町村全体で帰還した人は 22%にとどまっているという事実を挙げています。さらに、川崎氏は、より深刻なのは避難者の多くがふるさとに戻らないと決めていること、そのため、原発周辺の市町村は、自治体存続の危機に陥っていると指摘しました。
 このような指摘を踏まえると、政府の説明とは裏腹に、2020 年 9 月まで続いた安倍政権の下で東日本大震災からの復興が進んだとはとうてい言えません。

 ② 安倍政治は日本経済の再生にどのような実績を残したか?
 第二次安倍政権(2012 年 12 月~2020 年 9 月)が日本経済に残した実績をマクロ経済の指標で見ますと、名目 GDP では世界第 3 位と変わりませんが、絶対額では 2012 年の6,272,364 百万 US ドルから 2020 年には 5,040,108 百万 US ドルへと 19.6%の減となっています。また、1 人当たりの名目 GDP でいうと、日本は 49,175 百万米ドルから 40,049 百万米ドルへと 18.6%減となっています。絶対額の減少は多くの国々も同様ですが、世界のランキングで見ると、日本は、この間にドイツ、イギリス、フランスに抜かれ、14 位から 24 位へと下がっています。(以上、IMF、GLOBAL NOTE 参照:https://www.globalnote.jp/pdata-g/?dno=8860&post_no=1409)
 次に、国内のマクロ経済統計を見て、第二次安倍政権時代に顕著なのは法人の留保利益の急増(1.61 倍)です。これは、①毎期の企業業績が伸びているにもかかわらず、雇用の増加、賃金の増加といった労働分配が下がったこと、②法人税が連年引き下げられたことによるもの(それは税引後純利益の伸びが税引前純利益の伸びを上回っていることにも示されています)です。
 そして、法人税と所得税の減収を埋めたのが消費税増税と国債の大規模増発です。これによって、普通国債残高は 2012 年には 705 兆円だったのが 2020 年には 947 兆円となり、国債依存度は 48.9%から 73.5%へと急上昇しました。これによる国債費(債務返済と国債費利払い)のつけは将来世代に回ることになります。

 法人企業の主要項目の推移(表)=略

 以上は日本経済の概観ですが、これを見ると、安倍政権時代の日本経済は所得再分配だけでなく成長も低迷し、成長と分配の好循環が実現したとはとうてい言えない状況です。まして、財政再建となると、むしろ、遠のいたのが実態です。

 ③ 安倍政治は日本の安全保障政策にどのような実績を残したか?
 安倍氏が内政・外交でめざした最重点分野は安全保障政策であり、そこで安倍氏がもっとも注力したのは集団的自衛権の行使を可能にする安保関連法の改定でした。高村正彦氏は安倍氏を「現実的平和主義者」と評価し、NHKは「安倍政治は日米同盟を基軸とした内政・外交で大きな足跡を残した」という岸田首相の称賛をそのまま伝えました。
 では、国民は安倍氏が執心した安保関連法制の見直しをどのように評価したでしょうか?
 今年の 5 月 3 日にNHKがまとめた憲法世論調査によると、憲法改正が「必要」と答えたのは 35%で、「必要ない」の 19%を大きく上回りました。しかし、憲法 9 条の改正となると、「必要」が 31%、「必要ない」が 30%と拮抗しています。そして、「必要」という回答の理由として最も多かった(64%)のは「自衛力を持てることを憲法に明記すべき」で、「必要ない」の理由で最も多かった(70%)のは「平和憲法として最も大事な部分だから」でした。

 では、2015 年 9 月に、安保関連法案が可決・成立した時の、この法案に対する民意はどうだったでしょうか? 当時のNHKの世論調査によると、今の国会での成立に「賛成」が19.4%、「反対」が 44.9%、「どちらともいえない」が 30.4%で、法案に対する国民の理解が得られていたとはいえないのが実態でした。

 以上のNHKの世論調査とその分析については、次を参照。

・「憲法改正“必要 35% ”必要ない 19%“ NHK世論調査(NHK NEWS WEB、2022 年 5 月 3日、18 時 23 分)
・メディア研究部 番組研究グループ「安保法案報道」分析チーム「安全保障関連法案 テレビ報道の分析」『放送研究と調査』OCTOBER 2016。
 これは法案の内容もさることながら、本来、憲法改定の手続きを経るべき集団的自衛権の行使容認を閣議で決定したこと、その手続きの障害になりかねなかった内閣法制局長官を法案審議にあたって、集団的自衛権行使に寛容な人物に差し替えるという手続きが取られたことも民意に悪影響したとみられています。
 このような経緯を振り返れば、安保関連法の成立は安倍政治のレガシーになったかもしれませんが、それを安倍政治の功績と評価するのは民意と齟齬があります。
 以上をまとめますと、7 月 14 日のニュース7とニュース・ウォッチ9における安倍政治回顧の報道は、死去した安倍氏への哀悼の空気に流されて、安倍政権の実績を冷静かつ公正に評価する姿勢を欠いていたと言わざるをえません。この先、同様の過ちを繰り返さないよう、強く求めます。
                                以上


2022/07/19
第26回参議院選挙に関する声明


 7月10日の参院選を受けて、野党共闘を進めてきた「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)と、
「平和・民主・革新の日本をめざす全国の会」(全国革新懇)は、それぞれ、声明、談話を発表しました。


▼第26回参議院選挙に関する声明 「市民連合」

 7月10日に行われた参議院選挙は、大方の予想通り、自由民主党や日本維新の会が議席を大幅に増やし、衆議院に続いて参議院でも改憲勢力が議席の3分の2を超える結果となった。かたや立憲野党は、社会民主党が1議席を死守する一方で、立憲民主党も日本共産党も選挙前に比べて議席減となってしまった。

 より詳細に見ると、自由民主党が議席を増やしたのは1人区を含む選挙区に限られており、比例区ではむしろ1議席減らしている。逆に立憲民主党は、比例区では改選議席数を維持、議席減となったのは1人区を含む選挙区でのことであった。2016年、2019年と立憲野党が積み重ねてきた32の1人区すべてでの候補者の一本化が今回わずか11にとどまり、また、その11の選挙区でも選挙共闘体制の構築が不十分に終わった結果、勝利できたのは青森、長野、沖縄の3県だけに終わった。

 2016年に11議席、2019年に10議席を1人区で勝ち取ったことと比較して、野党共闘の不発が今回の選挙結果に結びついたことは明らかである。各地の選挙区で厳しいたたかいを最後まで懸命にたたかい抜いた全国の市民連合の皆さんに深い敬意を表するとともに、立憲野党各党には本格的な共闘への取り組みをまずは国会で一刻も早く再開することを呼びかけたい。

 むろん1人区だけでなく、複数区や比例区のたたかい方でも課題は見られた。複数区で日本維新の会の全国政党化を阻止したのは極めて重要な成果であったが、特に比例区において立憲野党各党は伸び悩み、日本維新の会や右派小政党に隙を突かれた。これらの課題は立憲野党だけでなく、私たち市民連合も今一度大きな広がりを作り直していくことが不可欠であることを示している。

 結果としては改憲勢力に3分の2を許してしまったが、安倍元首相の殺害という重大事件によって選挙戦が最終盤で大きく歪められてしまったことに加えて、もともと岸田自民党がいかなる政策も明確に訴えなかったこともあり、9条改憲や歯止めなき軍事力強化路線が信任されたとは到底言えない状況である。
 市民連合としては、自己目的化した改憲の企てを阻止し、いのちと暮らしを守る政治の実現を求める広範な取り組みを建て直していきたい。

           2022年7月11日
                安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合


▼第26回参議院選挙の結果をふまえて(談話)
 ―厳しい結果を乗りこえ、平和とくらし、民主主義を守るたたかいを強めよう―
                             2022年7月12日

 7月10日投開票でたたかわれた参院選の結果、自民党が改選議席の過半数を得、政権与党の公明党とあわせ76議席(非改選議席とあわせれば146議席)となった。また、改憲を主張する自民、公明、日本維新の会、国民民主党の4党で参議院の7割強を占めた。

 全国革新懇は、今回の選挙を軍事大国への暴走ストップ、改憲を許さない正念場のたたかいと位置づけた。また、コロナパンデミックで露になった新自由主義経済の破綻をのりこえるいのち、くらし最優先の政治への転換を迫るたたかいとしても重視した。そのことから、投票率アップ呼びかけの取り組みもふくめ、共闘の輪を広げ、政治を変える流れをつくりだすために全国の革新懇、賛同団体とともに奮闘した。その位置づけに照らして、結果は厳しく残念なものである。「市民と野党の共闘」が一人区32選挙区のうちの一部(12選挙区)にとどまり、28選挙区で自民党の議席獲得を許したことが、選挙結果に大きく影響した。

 参院選の結果、憲法9条も含めた改憲に前のめりで、「敵基地攻撃能力」を保有して海外での武力行使可能な自衛隊に名実ともに変質させようとする勢力、いのちとくらしよりも軍事費に税金を使うことをいとわない勢力が、衆参共に7割を超える議席を持つことになった。改憲発議に向けた動きが急加速する懸念が高まり、恒久平和と基本的人権の実現を政府の役割とする憲法と立憲主義はかつてない危機に直面することになった。

 しかし、マスコミ等の出口調査では、市民が重視した政策は、景気・雇用などくらしの課題であり、「憲法改正」はわずかでしかない。今以上の軍事費増への消極的な意見も多数である。そのことからしても、「白紙委任」を政府や改憲勢力が得たわけではない。

 選挙期間中も少数意見切り捨てや、市民の投票行動を軽視する発言が、政権党である自民党から行われた。ジェンダー平等の実現に背を向ける主張も繰り返された。物価急騰の主要因である金融緩和策を是正する動きも政府・与党には見られない。第7波が懸念される新型コロナウィルス感染への有効な対策は何らとられていない。

 これらのことからして、市民の政治への願いと政府の政策との矛盾がより深まることは確実である。その矛盾を可視化し、解決を迫る要求闘争を軸に、要求と政治をつなぐ共闘の前進、発展をめざして今夏以降のたたかいを強めよう。改憲暴走に反対し、平和とくらし、民主主義を守る共同の取り組みを草の根から広げよう。


 投票日直前に安倍元首相が銃撃され、逝去されるという事件が起きた。いかなる理由があろうとも暴力や武力での問題解決は許されない。同時に、政治的背景を持たない蛮行を「政治テロ」と言いつのり、権力による表現、行動の自由への介入強化も断じて許してはならない。今こそ、言論の自由を守り強くする取り組みを強めよう。

 少数意見の切り捨てを許さず、改憲と戦争する国づくりをストップし、憲法をいかす政治の実現を迫る運動により、「市民と野党の共闘」の前進、発展をめざす決意を新たにしよう。

2022年7月12日

                    平和・民主・革新の日本をめざす 全国の会(全国革新懇)代表世話人会
2022/07/04
平和国家として歩む――軍事力増強とは異なる道を――世界平和アピール七人委員会がアピール
 世界平和アピール7人委員会は6月24日、参院選に当たって、アピール、「平和国家として歩む――軍事力増強とは異なる道を―」を発表しました。

                                              2022年6月24日
                           世界平和アピール七人委員会
                              大石芳野 小沼通二 池内了 池辺晋一郎 髙村薫 島薗進

 「平和国家として歩む――軍事力増強とは異なる道を―」

 連日のロシアによるウクライナ侵攻の報道に接し、それに中国の軍事大国化の動きを重ね合わせて、日本はこれらの軍事大国に侵略されてはならない、それを阻止するためには軍事力をいっそう強化しなければならない、との声が強まっている。さらには、専守防衛では心許ない、敵の基地や指揮系統までをも攻撃できる反撃能力を保持すべきで、必要ならば先制攻撃も否定しないとの論まで打ち出されている状況である。
 このような軍事力強化の動向は、これまで築き上げてきた日本の平和路線の否定にとどまらず、かえって戦争を招きかねないことを強く銘記すべきである。他方、軍事力の増強は、際限のない軍備拡張競争に陥るだけであり、国民の福祉や医療や教育予算を切り捨てての軍事予算の拡大につながることも明らかである。国民生活の基本的権利を制限しての国権優先の軍拡は国民の幸福につながらない。
 日本は日本国憲法の前文と第九条のおかげで世界平和を希求する国として国際社会の信頼を得てきた。国連の安全保障理事会の非常任理事国として12回も選出されたことは、多くの国々に世界平和を牽引する役割を期待されてのことであった。私たちは日本国憲法が定めている平和を求める国という国のあり方を堅持し、国際社会における独自の地位を示し続けていくことが望ましい。
 戦争は殺戮と破壊を引き起こすのみであり、いったん戦争状態に入れば理性の声は吹き飛んでしまい止めようがなくなりかねない。これを思えば、戦争に巻き込まれない日本とすることこそが最も肝要であるのは論を俟たない。そのためには、いかなる覇権主義にもくみせず、またいかなる侵略の口実も与えないことであり、粘り強く対話と相互理解を積み重ねて平和的共存を追求し続けるべきである。
2022/06/22
平和と生活の保障か、破壊かの分岐点に立って 市民連合「声明」
 安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合は、6月22日、「2022年参議院議員選挙公示に際し、平和と生活の保障か、破壊かの分岐点に立って」の声明を発表しました。「7月10日は、日本社会の明日を決定づける分岐点」と訴えています。
 

  市民連合「声明」/2022年参議院議員選挙公示に際し 
             平和と生活の保障か、破壊かの分岐点に立って(2022年6月22日)

 今回の参議院議員選挙は日本社会の明日を決定づける分岐点となります。

 この選挙は長年にわたる自公連立(安倍・菅)政権を継承し、東アジアの軍事的緊張の増大とコロナ禍対策の失敗、経済政策の破綻によるインフレなどの悪政を人々に押し付け、人々の安全と生活を破壊する「翼賛国会」の道をすすむのか、それともこの悪政を転換する希望の政治への契機をつくるのかの分岐点です。

 今年の通常国会では、3年以上も続いてなお出口が見えないコロナ禍に加えて、生活破壊の物価高騰が人々の生活を直撃し、社会の貧困と格差が猛烈な勢いで拡大しました。長年続いた「アベノミクス」のもとでの異次元金融緩和政策は破綻し、岸田首相がいう「新しい資本主義」とか「所得倍増」などは大企業と大金持ちは富ませても、庶民の生活の苦境と困難が急速に進行しています。いったいこの国の政治はどこの、誰に向いているのでしょうか。いまこそ、長年続いた自公政権に断を下し、有権者の一票で厳しいお灸を据えなければなりません。

 折から勃発したロシアによるウクライナ侵攻に便乗し、改憲と軍備増強の合唱が繰り返されています。声高にさけばれる憲法9条の改憲や緊急事態条項の導入などの声の下で、軍事費の倍増、敵基地攻撃能力保有、核兵器の共有、「台湾有事は日本有事」などなど、従来の日本政府がとってきた「専守防衛」「平和主義」「非核3原則」など「国是」とされてきた政治の原則が相次いで壊される議論が言論界やマスメディアを覆っています。

 昨年の総選挙で自公など与党が圧倒的な多数をしめた国会では、こうした議論に日本維新の会や国民民主党までが加わって、人々が切実に望んでもいない「改憲」を緊急の課題として騒ぎ立て、国会の憲法審査会の議論を強引に進める一方で、経済安全保障法など危うい法律が十分な議論がないままに強行されました。

 圧倒的多数の与党とその追随勢力、翼賛的なメディアの報道のもとで、内閣提出法案成立100%という異常な事態です。民主主義が危機にさらされています。

 ふりかえってみれば前回2019年の参院選の投票率は48.80%で、これは1995年の44.52%に次ぐ低投票率でした。こうして有権者の4分の1程度の支持しか得ていないような政権のもとで、政治が重大な岐路に立たされていることは深刻です。いまこそ私たちはこの国の主権者としての自覚と責任をもって声をあげ、この選挙に参加していかねばなりません。

 さる5月9日、私たち「市民連合」は、立憲民主党、日本共産党、社会民主党、碧水会、沖縄の風の3党2会派との間で平和、くらし、環境、差別など4つの項目から成る「政策要望書」に合意しました。これらの立憲野党が共同して大きく前進し、明日の政治の変革への希望を切り拓くことができるかどうかは、この参議院選挙の最大の焦点になります。

 7月10日、ここが歴史の分岐点です。

              2022年6月22日

                                 安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合

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